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続・充足

 そのままの体勢で、無機的な電子音を響かせる冷凍庫をボーッと見つめ続けること、恐らく十分程度。僕は自分の坊主頭を無意味に撫で回し、糸のように細い息を吐いた。


 すると、全身に溜まった乳酸の奥の方から、確かな手応えと、そくそくとした達成感が静かに湧き上がってきた。


 ポケットに突っ込んでおいたメモ帳を再び取り出し、これまで自らが歩んできた創り手としての道のりを、つぶさに思い出してみる。


 一時は雑草に覆われたこの農地を整備し、伸び切って使い物にならなくなっていたブルーベリーの株を強剪定したのが、なんと今から五年前。


(そうか。あれからそんなに経つのか)


 木々の樹勢が復活したのを機に、やっとこさブルーベリージャムの商品化にこぎつけたのが三年前。


(あの頃は、どこに持って行っても門前払いされて、心が折れかけたこともあったっけなぁ)


 あてなき旅の途中で金井さんに出会い、本格的なカシス栽培に着手し始めたのも三年前。


(あの日受けた衝撃は、今でも昨日のことのように思い出せる)


 時をほぼ同じくして柄ちゃんと颯くんにも出会い、共に歩み始めて、早くも二年半もの年月が経過した。


(月日の足取りはなんて早いんだろう)


 なにはともあれ、明日からも果てしない収穫作業は続いていく。だけどそれは、正真正銘、僕が長年待ち焦がれていた狂喜乱舞の祭典に他ならない。


 どこまでも崇高で、だけど著しく常軌を逸しているからこそ、傍目からは酔狂な行為に映るであろうカシスの収穫作業は、僕にとっての祭典そのものなのだ。


 もしかしたら、こんな狂気そのものの没頭行為こそを「創作」と呼ぶのかもしれない。


 ゴッホや志功の脳内では、どんなイマジネーションの世界が繰り広げられていたのだろう。


 彼らは、どんな没頭の辺境地に辿り着いていたのだろう。その景色をせめて片鱗だけでも味わえているのだとしたら、僕は間違いなく幸せ者だ。


 ベリーピッカーの掃除にも磨きがかかるというもの。売上帳簿を打ち込む単調な作業にも、ワクワク感がプラスされるというもの。明日の作業に向けたストレッチにも気合が入るというもの。


 僕は若干萎え衰えた気力の回復を図るため、冷凍庫のなかからカシスの実数十粒をつかみ取り、そのまま口のなかへと放り込んだ。


 ヘビー級タイトル王者から放たれる渾身のアッパーみたいな冷たい衝撃が、疲労感もろとも、脳天の先へと突き抜けていく。


 創ってきて本当に良かった。そんな夜は、確かにここにあったのだ。

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