少年
手首に貼ってもらった間抜けなパンダの絆創膏を見つめ、僕は小さく頷いたのだった。
それから僕たちは、中央広場に繋がる道を連れ立って歩いた。
「それにしても盤ちゃん、そのティーシャツ、やっぱり駄目。お気に入りのバンドティーシャツなのかもしんないけど、中指立ててるイラストはさすがに駄目。分かるでしょ? そんな物騒なもの、こんな平和な場所に着てこないでよね、ほんと」
隣で歩く男の変人ぶりを笑う柄ちゃん。釣られてこちらも微笑む。
僕はその場で、人目も憚らずにティーシャツを脱いで、裏表に着直したのだった。
首裏についたタグが気にはなったものの、別に誰が注目しているわけでもないし、これはこれでアリということにしておこう。
小さな人口島を取り囲む海。そこに点々と浮かぶフェリーや貨物船。うっすらとした、それでいて深みのある潮の香り。島の背後に覆いかぶさった、呑気な図体の函館山。
数年ぶりに訪れた緑の島は、数年前となんら変わらず平和そのものだった。
キラキラとした海面上に、海鳥たちの賑やかな鳴き声が漂っている。
中央広場の方では、海風に凧を舞わせて遊んでいるカップルや、ボール遊びに興じる家族連れの姿が見て取れた。
「ママー! 盤ちゃーん!」
遠くにあるゴールポストのそばで、颯くんが変な踊りを踊り、しきりに僕たちを呼んでいる。彼はいつだって、周りの人たちを明るい気持ちにしてあげたくて一生懸命なのだ。そんな健気さがいじらしかった。
僕もお礼にふたりを喜ばせてあげたくなって、わざと大げさなはしゃぎ声を上げ、颯くんめがけて全速力で突進した。
笑いながら逃げ回る颯くんを捕まえて草むらに仰向けになり、青空を見渡す。なんだか少年時代に戻ったみたいな気分だ。
柄ちゃんはといえば、そんな僕たちの様子を写真に数枚収めた後、近くのベンチに腰掛けて、穏やかな海をいつまでも眺めていたのだった。




