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言い争い

「もしもし? 今日は畑?」


 大した用事がないならわざわざ電話してこないでくれよ。薄情な己をメタ認知しつつ、僕は猫背になってスマホの画面を雨粒から守った。


 今日の北斗市が雨模様なことを、詮索好きな母さんはすでに把握済みらしい。


 こんな日に畑で作業だなんて、どう考えてもまともじゃない。体に障るからやめておきなさい、か。やはりそうきた。


 雨の日に鬼の形相で剪定ばさみを振るっている自分がまともじゃないことも、強い雨風が体に障ることも、言われなくたってもちろん分かっている。


 だけど、早いところこの作業を終わらせなければ、今はまだ小さな若葉がどんどん生い茂り、緻密な季節の流れからあっという間に置いてけぼりにされてしまうんだ。


 自然相手のしごとは、一見呑気そうに見えて、実際のところ、常に迫り来るタイムリミットとの闘いなんだ。


 そこのところを全然理解してくれない母さんに毎度のことながらやきもしつつ、以上の言葉を全て喉の奥へ押し込める。


「農園を立て直すったってすぐにどうにかなるもんじゃないんだから、まずはちゃんとした仕事を見つけなさいって言ってるでしょ! ホントにそんな情けない有様で……。何回も言わせないでちょうだい、まずは職安に行って……」


 今しがた腹まで押し戻したはずの怒気が一気に逆流してきて、上唇と下唇の間を、刺々しい言葉が一気に取り過ぎていった。


 直後、僕は激しく後悔した。しかし、もはや制御不能となったこの口は、後悔とは裏腹な怒声をどんどん放出していく。


 こうなってしまってはもう手遅れだ。不毛な感情のぶつけ合いが坩堝のごとくエスカレートしていく。


 悔しいくらいに正論そのものの説教を、バリエーション豊かな金切り声でぶつけてくる母さんに対して、僕はこう反論する。準備期間が長引いているのは承知しているけれど、ちゃんと自分なり考えてやってるんだ。だからこれは断じてお遊びじゃないんだ、と。


 矢の束みたいに襲いかかってくる言葉に、僕は抵抗やむなく押し切られ、すぐに黙り込んだ。


 たまらず、「あれ、なんか電波が悪いな。聞こえない。もしもし? もしもし?」

 

 母さんの説教に稚拙な言い訳をおっかぶせ、一方的に通話を切ってやる。

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