超人
「俺ね、こないだ十勝に行ってきたんすよ。ハスカップとカシスを栽培してる農家さんのところに行ってきて」
「十勝? 随分遠くまで行ったんだね」
「そこの園主さんが八十にもなるじいさんなんすけど、末恐ろしいほどの働き者なんすよ。朝日が昇ってから日が暮れるまで、毎日毎日、休みなく仕事してて。それがとにかく驚きだった」
今度は、スラッとしていて、かつ包容力のある手指でフキの皮を剥いている柄子さん。彼女も、金井さんの驚嘆すべきバイタリティに心底驚いている様子だった。
「金井さんっていう人なんすけど、去年カシスの挿し木のつくり方を聞きたくて電話したときに、面白い話を聞かせてくれて」
その面白い話というのは、かいつまむとこんな感じだ。
それは五年ほど前の夏のある日の出来事だった。
いつものように畑で作業をしていた金井さんは、突然意識を喪失してその場に倒れ、病院に救急搬送された。脳卒中だった。
入院してから数週間経って、ある程度まで容体が回復した頃、驚くべきことに彼は自力で病院を抜け出し、畑に戻って作業を再開したのだとか。
病院関係者らによって病棟に連れ戻されても、また抜け出しては畑に行き、また病棟に連れ戻されては脱走してを何度も繰り返したという。
しまいにはとうとうかかりつけの医者がさじを投げ出して、そのままなしくずし的に退院することに。
さらによくよく聞いてみると、彼は、生命保険はおろか健康保険にすら加入したことがないそうなのだ。




