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親交

 奥の作業部屋を覗き込むと、窓際には一メートル四方サイズの黒いパネルと蓄電器らしきものが設置されていて、そこから伸びたコードが机の上のミシンに繋げられていた。


 柄子さんは、興が乗ってくるといつまでも作業を続けてしまう自分をちゃんと自覚している。だからこそ、この太陽光パネルで日中に得た電力のみを使ってミシンを動かしているのだと、そう説明してくれた。


 蓄電器のバッテリー残量がゼロになったら、よほど忙しい時を除いて、その日の作業はおしまいにする、というわけだ。


「なるべく太陽のリズムに合わせて、無理せず、マイペースに作品を創るようにしているの。仕事しすぎないようにして、今しかない颯との時間を最優先しているんだ」


 志功やゴッホのように、日常生活そっちのけで、昼夜を問わず創作活動にのめり込むタイプの創り手こそが至上と信じて疑わない僕とは、その点においてもまるで正反対だった。


 得難い衝撃が胸を貫き続けている。その総量こそ金井さんと出会った時と同じくらいだが、趣は大きく異なっていた。


 彼女もまた、長年の七転八倒の末に独自の創作スタイルを確立した、正真正銘の孤羊なのかもしれなかった。そのことは口にこそ出さなかったけれど、そう思えてならなかった。






 その後、僕たちは台所へ行き、畑で収穫したエゾネギを水にさらしたり、フキノトウの筋を剥いたりしながら、様々な話に花を咲かせた。


「あと、なんのためにモノ創りを頑張るかっていったら、やっぱりおいしいものを食べるためだよね」


 表向きは同意しながらも、僕は内心そんな考え方もあるのかと驚いていた。


 居間の颯くんに目をやると、鼻歌を歌いながら指スケの練習に興じていた。


 テーブルの隅の方には、シロクマとキリンとパンダのぬいぐるみが仲良く並んでいて、彼を優しく見守っていた。


「そのぬいぐるみたち、可愛いね」


 ちょっとだけ勇気を振り絞ってそう語りかけてみると、颯くんは、彼らがただのぬいぐるみではなく、あくまでも血の通った大切な友人たちであることを、照れくさそうに主張してきた。


「颯はね、最近あれに夢中なの」と、米を研ぎ始めた柄子さん。


「指を使って技を決める、小さなスケートボード。指スケっていうんだけど。あ、知ってた? 最近、学校で色んなことがあって大変なんだけど、あれに打ち込んでいる時は嫌なことを全部忘れられるんだって。それと、サーフィンとスケボーも最近始めたんだ」


 机に向かう彼の小さな背中が、心なしか十数年前の自分と重なった気がした。

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