爆発
タオルを頭から外して、左手にぐるぐると巻き付け、ドカンと立ちすくむクルミの木の真ん前へ。
なんとなくなら理解できるシャウトの意味を、今の制御し難い苛立ちと直列で繋ぎ、幹めがけて何度も何度も左ストレートを打ち込む。
(俺ごときじゃっ、無理にっ、決まってるだとっ?! 少なくとも俺はなっ、死にもの狂いでっ、努力してんだよっ! そういうテメーはっ、これまでにっ、何かひとつでもっ、成し遂げたことがっ、あんのかコラぁぁっ!!)
拳と手首に鈍い痛みが蓄積し、額から噴き出した汗が口に入り込んでくる。だけど、そんなのはお構いなしだった。
(それとなっ、二言目にはっ、地球に優しいですっ、環境に配慮してますっ、うっせんだーよっ、この偽善者がっ! 俺はなっ、オメーみてーなっ、二枚舌野郎がっ、一番嫌いなんだよぉぉっ!)
「……わぁ。……ちわぁ。こんにちはぁ」
耳を塞いでいる爆音越しに人の声がして、僕は慌てて振り返った。
隣の家のおばあちゃんだ。もんぺみたいな昔ながらの作業着に身を包み、腰をくの字に曲げてポツンと立っている。その小さな掌からは、何やら風呂敷らしきものをぶら下げている様子。
汗にまみれた顔面の内部が、沸騰した瞬間湯沸かし器の中身みたいに熱い。急いで耳からイヤホンを取り外そうとするも、動揺を隠しきれずにまごついてしまう。
「……ねぇ。……なさいねぇ。あ、聞こえるかい? お取り込み中ごめんなさいねぇ。しっかしお兄さん偉いねぇ。若いのにいっつも畑仕事さ頑張っててぇ」
「あ、はい」
地面に向かってボソボソと返事するのが精一杯だ。間の悪さにおいてなら、僕の右に出る者はそうそういないだろう。
「今日ね、ほら、敬老の日だからってねぇ、娘がおはぎをこしらえてきてくれたんだけども、じいさんとあたしじゃ到底食べきれないもんだから、お兄さん、食べないかと思ってねぇ」
依然として動揺が尾を引きずっている。しかし、当のおばあちゃんは、僕が半狂乱になって木の幹を殴りまくっていたことは、端から気にしてない様子だった。
「あ、あざます。すんません。えっと、じゃ、いただきます」
「はい、じゃ、頑張ってねぇ」




