表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/76

爆発

 タオルを頭から外して、左手にぐるぐると巻き付け、ドカンと立ちすくむクルミの木の真ん前へ。


 なんとなくなら理解できるシャウトの意味を、今の制御し難い苛立ちと直列で繋ぎ、幹めがけて何度も何度も左ストレートを打ち込む。


(俺ごときじゃっ、無理にっ、決まってるだとっ?! 少なくとも俺はなっ、死にもの狂いでっ、努力してんだよっ! そういうテメーはっ、これまでにっ、何かひとつでもっ、成し遂げたことがっ、あんのかコラぁぁっ!!)


 拳と手首に鈍い痛みが蓄積し、額から噴き出した汗が口に入り込んでくる。だけど、そんなのはお構いなしだった。


(それとなっ、二言目にはっ、地球に優しいですっ、環境に配慮してますっ、うっせんだーよっ、この偽善者がっ! 俺はなっ、オメーみてーなっ、二枚舌野郎がっ、一番嫌いなんだよぉぉっ!)


「……わぁ。……ちわぁ。こんにちはぁ」


 耳を塞いでいる爆音越しに人の声がして、僕は慌てて振り返った。


 隣の家のおばあちゃんだ。もんぺみたいな昔ながらの作業着に身を包み、腰をくの字に曲げてポツンと立っている。その小さな掌からは、何やら風呂敷らしきものをぶら下げている様子。


 汗にまみれた顔面の内部が、沸騰した瞬間湯沸かし器の中身みたいに熱い。急いで耳からイヤホンを取り外そうとするも、動揺を隠しきれずにまごついてしまう。


「……ねぇ。……なさいねぇ。あ、聞こえるかい? お取り込み中ごめんなさいねぇ。しっかしお兄さん偉いねぇ。若いのにいっつも畑仕事さ頑張っててぇ」


「あ、はい」


 地面に向かってボソボソと返事するのが精一杯だ。間の悪さにおいてなら、僕の右に出る者はそうそういないだろう。


「今日ね、ほら、敬老の日だからってねぇ、娘がおはぎをこしらえてきてくれたんだけども、じいさんとあたしじゃ到底食べきれないもんだから、お兄さん、食べないかと思ってねぇ」


 依然として動揺が尾を引きずっている。しかし、当のおばあちゃんは、僕が半狂乱になって木の幹を殴りまくっていたことは、端から気にしてない様子だった。


「あ、あざます。すんません。えっと、じゃ、いただきます」


「はい、じゃ、頑張ってねぇ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ