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征伐

 養分も、水分も、容赦なく周囲の笹に奪い取られていく理不尽な環境下にあって、数少ない葉を精一杯芽吹かせたそいつは、あえぎ苦しみながら、それでもしぶとく生き延びていた。


 その健気な姿を見て、僕はある真理を悟った。どんな命だって、何がなんでも生き抜いてやろうと必死なのだ。それはきっと人間だって同じはず。


 取り急ぎ、周囲の笹を鎌で払って日光の通り道を確保してやる。


 落葉するのはだいたい二ヶ月後のはずだから、挿し穂をつくるのはもっと後にしておこう。


 差し当たって今やるべきことは、ここら一帯の笹を全部やっつけて、整地作業を進めておくことだ。


 折しも曇天模様は、示し合わせたような晴れ間をあちこちに現出させていた。

 濡れた地面が、あたかも呼吸するようにして水分を中空へと蒸発させている。


 僕は小型トラクターや刈払機などを笹の地帯へ移動させると、作業帽をかぶり、軍手をはめた。


 さっきまでの冷たい外気はいつの間にか蒸発し、急に暑くなってきた。

 

 レインコートを脱いで腰に巻きつけると、わずかばかりの清涼感を内包した生ぬるい風が、燃えるように火照った胴体を無意味に撫でていった。


 刈払機のスイッチをオンにして、繰り返しスターターロープを引く。


 エンジン音を唸らせ始めた本体にストラップを繋ぎ、両肩に食い込ませて刈払機をかついだら、準備完了だ。


 スロットルレバーを八分目くらいまで引き込み、機関銃による一斉掃射よろしく、憎き笹どもを根本から借り払っていく。


(オシャレ? 余裕ぶっこいてる? これが? なんにも知らねーくせに。ざけんな)





 どこまでも地味な格闘は一時間あまりにも及んだ。


 スイッチをオフにしてエンジンを止め、ストラップの重みによって鬱血しかかっていた肩を自由にする。


 刈払機の振動をもろに受け止めていた両手が、ジンジンとした悲鳴を上げていた。


 感覚の薄くなった十本の指を伸ばしたり曲げたりしながら、なぎ倒されて地面に横たわった笹を見下ろす。


 背伸びするように枝葉を広げているカシスの株は、長年に及んだ理不尽な圧政からついに解放されて、心底喜んでいるように見えた。


 だけど、これしきの成果じゃ満足してはいられない。


 笹ってやつの生命力は文字通り無尽蔵だ。一月も経つ頃にはあっという間に蘇って元通りになっていることだろう。


 このエリアを圃場として活用するには、地中深くまで浸透した根をきっちりと駆除しなければ。


 笹の茎葉の残骸を一箇所にまとめ、トラクターに乗り込む。


 エンジンキーを回して耕運プラウを下降させ、ハンドル横のスイッチを入れると、複数の回転場が地面をくわえ込み、強靭な意志力でもって掻き回し始めた。


 地上に残った膝丈の笹の茎を目印にして、一列一列、根気強く耕していく。


 この土耕作業を、少なくともあと十回程度は行う必要があるだろう。やれやれ、先は長いな。

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