苛立ち
既読をつけてしまったことに軽い後悔を覚えつつ、「おー、久しぶり」
と通り一辺倒の返事をしてみる。
「うお、返事きたw お前、生きてんの?」
生きてんの?とはなんだよ。癪に触ったが、畑を引き継いでからというもの人付き合いがめっきり希薄になっていたから、まあ、そう思われても仕方のないことなのかもしれない。
しこりのような疲れを引きずりつつ、さらに二、三やりとりしてみる。どうやら、同窓会に誘うために連絡してきたらしい。
初回から一向に顔を出そうとしない僕がどんな人生を歩んでいるのか、飲みの席で様々な憶測が飛び交っていたのだとか。
今さら参加するのはどうしても気が引ける。どうやって断ろうか思案していると、
「つかさ、お前今何してんの?」
予想通りの問いかけが。
「今はバイトとか……」
そこまで打ってから、☓ボタンを長押して代わりにこう書いた。
「今、引き継いだ親の農園を立て直してる最中なんだ」
不退転の覚悟で始めたことなんだから、誰に遠慮する必要もないはずだろ。そう自分自身に言い聞かせてみても、心臓はバカ正直に鼓動を早めていく。
ひとくさり驚きの感想が述べられた後、どんなものを育てているのか聞かれて、僕はこう返した。できるだけ素早く親指を動かして。
「今はブルーベリーと、あとはこれからだけどカシス。ジャムを商品化したいから」
「は? なんそれ、ウケるw つか、めっちゃオシャレじゃん。カシスって、あのお酒とかのやつ? カシスオレンジの?」
「うん、まあ」
突然のメッセージになんとなく既読をつけてしまったことがひたすら悔やまれた。この不毛なやりとりはいつまで続くのだろうか。
「つか、それ儲かるの?」
「うーん、それはやってみないと分からないかな」
「へー。つかさ、お前、彼女は?」
「いや、別にいないよ」
一体全体どうして、人間という不可解な生き物は、何かにつけ他人の動向や近況について探りたがるのだろう。
「辟易」とは、先刻から僕の心を支配している感情を表現するのに最も適切な言葉に違いない。スマホの画面上で親指を遊ばせながら、そんなことを思った。
「はー、お前は良いよな。余裕ぶっこいてて、なんか楽しそうでさ。趣味に割ける時間もたくさんあるし。俺なんか……」
今年就職した会社の人使いが荒くて、眠る時間も満足に確保できないこと。今付き合っている彼女と年内に結婚したいと考えていること。実業団で選抜選手に指名されたこと。加えて、初任給の具体的な手取り額。
メッセージの羅列は、大まかにまとめるとこんな感じの内容だった。
スッキリしたのか、それとも満足したのか、「じゃ、同窓会、出れそうなら教えて」
彼はこちらの返信を待たずにそう書き残し、それからすぐに、鼻につくアイコンのログイン表示が消えたのだった。
〈趣味ってか〉
僕は車両に自分しか乗っていないのを再確認してから、
「っせーな、クソ」と唸った。
すると、最前列のシートに深くもたれていたらしい強面のおじさんが、ぐるりと振り向いてこちらを睨みつけてきた。
慌ててうつむき、二、三咳払いをしてからFacebookのフィードをスクロールしていく。
連なる投稿のなかに、いかにも胡散臭げな自己啓発系動画のサムネイルを発見する。この動画を最後まで視聴するだけで、「誰もなったことのないもの」になるための最短メソッドを入手することができるのだとか。
馬鹿らしい。そう思いながらも、スマホにイヤホンを挿して再生ボタンを押してみる。今朝の自分はなんだか全然自分らしくない。
数十秒間だけ視聴したところで、耳に入れたばかりのイヤホンをむしり取って、携帯をケーブルでぐるぐる巻きに。
リュックのポケットへ煩わしい電子機器をグッと押し込む。




