衝撃
「しっかしまあ、随分と背の大きなお兄さんだね。ごめんねぇ、ハスカップの摘み取り園は一ヶ月以上前に終わっちゃったんだわ」
どうやら僕のことをお客と勘違いしているようだ。僕はたどたどしく自己紹介をしてから、ここへやって来た理由についてできるだけ丁寧に説明した。
僕みたいな自分を探している真っ最中の青二才には、これまでも何度となく会ってきたのだろう。
作業着の両ポケットに手を突っ込んだまま、相変わらず人懐っこい笑みを浮かべている。
作業を手伝わせてもらえないか、可能であればその間に話を聞かせてもらえないか聞いてみると、彼は快く承諾してくれたのだった。
収穫作業が一段落ついた今時期は、株元の草取りが主な作業らしい。
見渡す限りの低木果樹は合わせて五千株もあり、それらをひとりで、しかも農薬や除草剤は一切使用せずに管理しているのだという。
それを聞いて、僕は文字通り立ちくらんだ。
僕なんて千株にも満たない本数で四苦八苦しているというのに、五千株をたったひとりで、この歳になってもきっちりと管理しているだなんて、とても人間業とは思えなかった。元来が人間ではなく、化け物か宇宙人なのかもしれない。
「根気だけが取り柄だからさ、俺ら生産者は」
驚きっぱなしの僕に、さも当たり前といった口調でそう言ってのける。
そこには自分をことさら大きくみせようとする意図が、全くといって良いほど含まれていなかった。
日陰がほとんどない園内で、灼熱の日差しに全身をさらしながら、僕は金井さんと一緒にハスカップの株元の草取りをした。
仕事ぶりは極めて丁寧なのに、そのペースがあまりにも早くて、ついていくだけで精一杯だ。いや、それどころか、ちょっとでも油断するとみるみる引き離されてしまうから、正直なところ呑気に話を聞いている余裕なんて一切ない。
乾いた地面に膝をつき、痛む腰を抑え、額から滴り落ちる滝のような汗を拭う僕。
火照った顔を持ち上げると、金井さんは涼しげな様子で、いつの間にか十株以上先の地点まで進んでいた。
どでかいミミズを手の平に乗せ、畑の土質の良さについて自慢している。その表情は幼い子供のように屈託がなかった。
聞くと、驚くべきことに、彼は今年で御年八十歳になるのだという。とすると、僕は五十五歳以上も年下という計算になるではないか。
これほどまでに無尽蔵な馬力を体内に搭載した老人がこの世に存在するだなんて。ヤワな若造の僕にはその事実が信じられなかった。
それはそうと、はるばるこんなド田舎まで赴いたのに、このままでは何も話を聞けず帰ることになってしまいそうだ。
僕は潔く草取りを諦め、彼の背後にぴったりと貼り付いて、様々な質問を矢継ぎ早にぶつけた。
案外、インタビューを受けるのはまんざらでもない様子だ。次第に草取りの手が止まり、いつの間にやら園内の案内ツアーが始まる。
まずはここら一帯と、圃場の右半分を占めているハスカップの説明を。それから、試験的に五百株ほどを栽培しているらしいカシスの圃場へ。(五百株で「試験的」だなんて、冗談にしか思えなかったけれど) 最後に、レッドカラントやラズベリーが少しだけ植え付けられているエリアも見せてくれた。
各種ベリーの栽培方法やこだわりについて解説してもらううちに、金井さんの波乱万丈な半生がだんだん浮き彫りになっていく。
僕はメモ帳を開き、インタビュー内容を一心不乱に書き記していったのだった。




