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出会い

 視界のほぼ全域を埋める、気の遠くなりそうな本数の低木果樹。


 よくもまあ、こんなとんでもない数の木を植えたもんだ。過去に写真集か何かで見た秦帝国の「兵馬俑」を思い出さずにはいられない。


 眼前に繰り広げられている光景は、ホームページに記載されていた「のどかな果樹園」というキャッチコピーよりも、「果樹の軍隊」と表現した方が適切に思えるほどの迫力を放っていた。


 これらは全てハスカップの株なのだろうか。収穫期を過ぎているのか、生い茂った楕円形の葉の合間を覗き込んでも、実は全然なっていない。


 それにしても、この木々の親玉は広い園内のどこにいるのだろう? 今は用事があって留守にしているとか?


「すんませーん」


 恐る恐る虚空に挨拶を投げかけてみる。が、梟の鳴き声みたいな風の音以外は何も返ってこない。そのもの寂しくも誇り高い音を、僕は幼い頃からよく知っているような気がした。


 さらに圃場の奥まで進み、緑葉の沖の真ん中あたりまで来た時、びっくりするほどの近距離で、白いキャップがひょいっと音もなく持ち上がった。


「あ、あ、ども。ここの人っすよね? すんません、突然来ちゃって」


 ごくりと生唾を飲む僕の目の前に、ハスカップの枝葉を豪快にかき分け、険しく目を細めた老人がやってきた。


(やべー、さすがに怒られるかな)


「はいはい、こんにちは。いや〜、今日のお天道さんは眩しいねぇ」


 額に手をかざしつつ、彼は人懐っこい笑みを輝かせてそう言った。


 どうやら、僕の背後で燦然と照っている日光に目を細めていたらしい。ホッと胸を撫で下ろす。

 

 日焼けした褐色の肌に、真っ白な歯と深く刻まれた目元の笑い皺。植物のポジティブな生命力をそのまま閉じ込めたかのような、溌剌とした瞳。


 使い古された白いキャップがとても良く似合っている。身に纏っている紺色のつなぎは、特に膝袖と両袖のあたりが土で真っ黒になっていた。


 歳はいくつくらいだろう? 一見したところ還暦は過ぎていそうだ。


 つなぎ越しでも、全身の筋肉が現役ボクサーさながらに引き締まり、気根が溢れんばかりに充実しているのを感じ取れる。


 どんな強風が吹いてもびくともしなそうな足腰は、どっしりと、したたかに大地を踏みしめていた。

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