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続・研修

 机の上で所在なく携帯をいじっていると、


「皆様、こんにちは」


 市役所職員がマイク片手に挨拶をして、講習会のスタートをアナウンスした。


 隣に座っている、ガタイの良いプレゼンターを紹介した後、肩書がスクリーンに映し出される。


 その実績の羅列が膨大で、結局のところ、彼がどういう人物なのかは釈然としなかった。


 なんとなく理解できたことといえば、札幌市郊外でブルーベリー・ハスカップ栽培農園を経営していることと、同業者を相手にしたコンサル業のようなものを行っているということくらいだった。年の頃は四十代後半といったところか。


 次に室内が暗くなって、スクリーンにパワーポイントの画面が映し出され、本題であるプレゼンが進んでいく。その題目は「ポストブルーベリーについて考える」だった。


 「目に良い果物」として各種メディアで取り上げられ始めたことをきっかけに、ブルーベリーが一大ブームとなったのは、2015年現在からかれこれ十年以上前のこと。


 ブルーベリー栽培に着手する農家の戸数が爆発的に増え、摘み取り園の開園ラッシュが到来。しかし、当然の帰結として供給量が需要を大幅に上回り、全国的な平均取引単価は下落の一途を辿った。


 最近では、次なるベリー類としてハスカップやアロニアに注目が集まっているものの、一般的な知名度が低すぎて、全然モノになっていない。


 開始から十分間程度で、大まかにこんな内容のことが語られる。


 次に、カシス、レッドカラント、ブラックベリー、シーベリーなど、日本ではほとんど知られていないベリー類の写真がスクリーンに映し出される。


 彼いわく、これらはハスカップやアロニアよりもさらにマイナーなことから消費者への訴求が極めて難しく、加えて収穫時に必要不可欠な人手の確保も困難なため、


「はっきり言って導入するのは論外です」との結論だった。


「厳しいことを申し上げるようですが、一からベリー類を栽培し始めるのはハイリスク・ローリターン以外のなにものでもありません。もうすでにやっておられる方々は別として、一般論的にはやめておいたほうが無難でしょう」


 その意外な言葉を受けて、聴講者一同の肩が下がった気がした。誰の背も、一様に精魂尽き果てた悲壮感を背負っている。


 プレゼンの内容は、だんだん予想外の方向へ進んでいった。


 現在、全国的に需要の伸びている品目は、ミニトマト、ナスビ、ピーマンといった果菜類であること。北海道産の果菜類は本州の消費者に喜ばれる傾向にあるので、今後さらなる期待が持てること。そんな内容の持論が展開されていく。


 とどのつまり、ローンを組んで設備投資に着手し、一般需要に合わせた栽培計画を立てることの重要性について力説しているのだ。


(もういいんじゃね? ゴロー、行こうよ)


 机の影でメッセージを打っていると、ふいにプレゼンターが


「お、どうやら会場には若者も来ているみたいですね。一番後ろに座っているそこのおふたり」


 と口にしたのをなんとなく耳にした。若干テンポが遅れて、その呼びかけは他ならぬ僕たちに向けられたものだということに気がつく。


 会場全体の三割くらいが一斉に振り向いて、物珍しげな視線を向けてきた。心臓が駆け足で脈打ち、脇汗が一気ににじみ出る。

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