散策
小一時間ほどで到着した洞爺湖は、鏡のように真っ平な水面をどこまでも湛えていた。
日光をバカ正直に反射している様が、なんだか潔く感じられてたまらなく良い。
車を停め、疲労の溜まった腰をひねりながら、ほとりまで行ってみる。
水面に映るのは、緑々しい山の木々。絵に描いたような湖面反射の景色だ。
中央には小さな島がこんもりと浮かんでいて、その周りに、ぽつり、ぽつりとカヌーを楽しむ人々の姿が見て取れる。
深い青の湖畔と対をなす緑の草原には、ジョギングに精を出す年配者や、ピクニックを満喫する家族連れの姿も確認できた。子供たちの真っ黄色な笑い声がちらほらと聞こえてくる。
あ、あそこの辺りは、かつて家族と一緒にキャンプをしに来た時、テントを張った場所に違いない。
あの頃の僕は「憂鬱」なんて概念を知る由もなかったし、怖いものだって何ひとつなかった。
当時の真っ白に弾んだ感情が、そっくりそのまま蘇ってくる。あの頃の自分は、まだちゃんと心のなかに息づいていてくれたんだ。そうか、良かった。
それはそうと、遠くから聞こえてくる賑やかな音はなんだろう。ここからでは視認できないけれど、向こうで何か催し物でも開催しているのかもしれない。
音に吸い寄せられるようにしてしばらく歩いていると、今度は肉の焼けるたまらない匂いが漂ってきた。
さっき直売所の駐車場でお腹を満たしたばかりだが、道中のお供にちょっとしたものでも買っていこうか。そんなことを考えながら歩き続けていると、催し物の全容がだんだん明らかに。
ひときわ広い草原にはたくさんの出店用テントが設置され、様々な種類のお店が軒を連ねている。
奥のエリアには小ぶりな野外ステージが組まれていて、そこそこの数のオーディエンスを前に、年齢層高めのバンドがオールディーズ風の曲を演奏していた。
それにしても、本会場はかなりの人だかりだ。それぞれのお店の前はひときわ繁雑とした人混みでごった返していて、出店者たちが生き生きと立ち働いている。
色とりどりの看板を順番に眺めていると、一番奥のテントで、見覚えのある姿が忙しそうにしているのを発見した。先日、ブルーベリー狩りに来てくれた親子連れのお母さんじゃないか。
あの日着ていたものとは趣の異なる、赤いつぎはぎのワンピースを身にまとい、お客さんに商品についての説明をしている様子だ。ああ、そうか。あの人は服を創っている人だったんだ。どうりで。
店先には、異国のものと思われる布でつくったトートバッグやベレー帽、加えてクッションやリュックなんかも並べてある。
カラフルかつ上品な雰囲気の店構えに、僕は一瞬で心を惹きつけられた。
長髪の息子さんも、彼女のすぐそばにいた。ジーンズだけを身に纏った半裸姿で、同じくらいの歳の頃の子供たちとはしゃぎ回っている。




