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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅲ 手を取り合って

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第87話 真実と愛の手料理発表会 #3

「おい。分かるように説明してくれよ」


 分かった人たちに、ベルハルトが混乱しながら訊いている。


 それには、エルスウェン自身が答えることにした。全員を見回して、言う。


「これがパンケーキだと分からない、謎のパンケーキ(?)にしか見えない――それはつまり、未識別の呪いが、このパンケーキ(?)にかかってしまった、ということなんです」


 エルスウェンは、泣き真似をして縋りつこうとしてくるフラウムを身体から引き剥がしつつ、続けた。


「迷宮内に立ちこめる瘴気を物品が吸ってしまったり。もしくは魔物が所有する武器や道具、溜め込んでいる宝は、魔物そのものが持つ瘴気を吸って呪われた品になることがあります。呪いとは、そうした瘴気によってものに付与された、探索者を害する効果を指します。そして、呪いは加護と違って、呪いの種類に合わせた解呪の魔法によって、外すことができます。解呪の魔法が使えなくとも、聖堂に依頼することで、誰でも外してもらえるのですが……」


 全員が頷く。探索者にとって、訓練所で習う基礎の知識だからだ。


「ただ、その中に本当の意味での害とは言いきれない呪いがあります。一番簡単で、一番遭遇することの多い呪い。それが……未識別の呪いです」


「あっ、そうか……! これが、黒いかたまり……パンケーキ(?)って感じにしか見えないのは……!」


 ファルクが言う。それにエルスウェンは首肯を返した。


「そう。フラウムが魔力を注ぎ込みすぎた結果、出来上がった料理に、未識別の呪いがかかったのと同じ状態になってしまったんです、このパンケーキ(?)は」


「私の愛は迷宮の瘴気と同じかよー!」


 フラウムが突っ込みを入れてくる。それには、カレンが言い返した。


「なんかおかしな情念でも込めて作ってない? アンタ」


「えっ? そんなわけないじゃん! 私はちゃんと! 料理は愛情! 愛さえあればオールオッケーの精神にのっとって、『エルス、私に惚れろー!』って百回唱えつつ最大火力で――」


「それはダメだわ。絶対呪われてるわ。むしろ迷宮の瘴気より呪われそう」


「なんでだよー!?」


 絶叫するフラウムを尻目に、カレンは内緒話でもするように口元に手を当てつつ、こっちへ言ってくる。


「エルスくん、食べちゃダメよ絶対。毎回、律儀に食べてあげてるんでしょう。死ぬわよ。ゴミ箱に……いえ、街の外れのゴミの埋め立て場に直接埋めてきなさい。地下百メートルくらいの穴を掘って、入念にね。二度と蘇らないように」


「コラ! 人の料理を産業廃棄物扱いすんなババア!」


 フラウムが噛みつく。それを横目に、エルスウェンは苦笑して答えた。


「ちゃんと食べますよ。味そのものは毎回、おいしいですし」


「律儀ねぇ……。今度私が、口直しにちゃんとしたパンケーキを焼いてあげるわ」


 と、そんなやり取りをしていると。


 王女が首を捻りつつ、訊いてきた。


「ですが、その未識別の呪いと……黒燿の剣士が一切の傷を負わないということとの間に、どのような関係があるのでしょうか?」


 王女に、エルスウェンは問い返した。


「王女殿下は、未識別の呪いがかかった物品を、直接ご覧になったことはないのですね? 聞いたことはある、くらいで」


「ええ。そういった、迷宮内で手に入るものには、そこにあるのに、どれほど仔細に観察をしても正体を掴めない、というものがあるとは聞いていますが……」


「そうですか。では、このナイフとフォークで、実際にこのパンケーキ(?)を切り分けようとしてみてください。体験してみた方が、早いですから」


 皿とナイフ、フォークを王女の方へと寄せる。王女は早速、パンケーキ(?)を切り分けようと試みた。


 が、ナイフが通らない。王女はすぐに悲鳴を上げた。


「なっ……!? なんですか、これは!? 固い!?」


「わらわにも、試させよ」


 女王までも挑戦しようとする。が、結果は同じだ。ナイフが通らない。


「た、確かに……岩のような。鉄のような固さ。しかし、妙な手応えで正体が判然とせぬな……。これが未識別の呪い、というものか」


「はい。未識別の物品は、著しく毀損きそんしにくくなります。ものの正体が分からない。壊せたかどうかも分からない――つまり、壊れていない。そんなふうに、ものの状態が呪いによって修正され続けてしまうという理屈らしいですが」


 エルスウェンは、少し声を大きくするように意識して、言った。


「黒燿の剣士には、この呪い――未識別の呪いがかかっていたんです。彼の正体は、間違いなく僕の父でしょう。ですが、僕が見ても、ドゥエルメさんが見ても、正体が分からなかった。感じることもできなかった。装備品がどういうものか、見るだけでは判別どころか、覚えていることも不可能だった。いつも、あの剣士の姿はおぼろげで……そして、あらゆる攻撃を跳ね返しました。それは、未識別の呪いがかかっていたからなんです」


「なるほど……。なるほどな」


 深く、感じ入った声と共に頷いてみせたのは、ドゥエルメだった。


「エルス、お前の説明で確かに……すべて、説明がつく!」


 彼はさらに勢い込んで続けた。


「剣技は紛れもなく、お前の父のものだった。なのに、正体が全く判然とせず、姿形からは全く、彼だということが分からない。おかしいと思ったのだ」


「はい。ドゥエルメさんだけでなく、全員が……状況証拠は全て、あの黒燿の剣士は僕の父だと示していると分かっているのに、そうだと言いきれない。あの姿……漆黒の鎧に身を包んだその姿さえ、なんだかぼやけているような。そんな印象しか残らない。まさにそれが、未識別の呪いの効果なんです」


「うむ。おかしいとは思っていたが……。まさか、操る死体そのものに、未識別の呪いがかかっているとは……。考えもしなかった。よく分かったな、エルス。まさか、本当にそのフラウムの料理を見て見抜いたわけではあるまいに」


「ええ」


 本当にフラウムの料理のおかげではあったのだが、ごまかして頷く。


 だが、返答をしてしまった手前、エルスウェンは、他の推理の根拠を挙げていくことにした。



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