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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅲ 手を取り合って

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第84話 再起 #4

「あ……じゃあ、水、もらってもいいですか。喉、乾いてて。上手く声が出なくて」


「オーケー。エルス、起こしてやってくれ」


 ラークに言われて、ファルクの身体に手を回し、起こしてやる。


「大丈夫? ファルク。まだ目が覚めたばかりだろう? 起きられる?」


「ああ、うん。思ったよりも……だるくはないよ。蘇生は初めてだけど」


「そう? 僕は蘇生後、全然起きられなかったから。鍛えている前衛は違うね」


「エルスは、細いからな。もっと体力をつけた方がいいんじゃないか」


「ううん……検討しようかな」


 なんだか、ファルクの雰囲気が柔らかくなったことを、エルスウェンは言葉以外からも感じていた。今まで、少し距離があったような気がしていたが、それが縮まったような。


 身体を起こしたファルクは、ラークからグラスを受け取り、並々と注がれた水を一息に飲み干した。


 それからりんごを二切れほど食べると、人心地ついたようだった。息をついてしばし、なにごとか考えた後、ファルクはエルスウェンのほうを見てきた。


 もう、涙は乾いている。


「エルス。助けてくれて、ありがとう」


「ああ、うん……僕は、ほとんどなにもしていないけど」


「そんなことないだろう? きっと、腕とかを繋いでくれたのは、君のはずだ。斬られたとは思えないくらい、すごくしっくりくる……エルスの治療の魔法はすごいからな。キャリスと同じか、それ以上だと思うんだ」


 元司祭であるキャリスと同等とは、褒めすぎだと思ったが。ファルクの惜しみのない讃辞だということも分かる。照れ臭いが、素直に頷いた。


「ありがとう」


「なあ、エルス。俺は、君に謝りたいと思ってたんだ。僕は、君に嫉妬していたと思う。ずっと、後ろ暗い気持ちがあったんだ……。前の探索から逃げ出して……なにもできない自分と、討伐の中心になっている君を見て、ひどい気持ちになっていた」


「……うん」


 エルスウェンは、あまり他人の悪意には頓着しないようにしている。訓練所にいたころ、つまらない小競り合いを経験したりもしたが。


 ただ、ファルクがそういう手合いと同じだとは思っていなかった。彼のそういう気持ちは、ひとえに自分と向き合おうとするせいで生まれてきた苦悩だろう。そういう過程で生まれてきたものまで、悪いものとは断ぜられない。


 ファルクがそれを乗り越えられる人だということも分かっていたから、心配はしていなかった。いや、命のほうは、すごく心配だったが。


 それを告白してくれたファルクに、自分も伝えようと思った。


「なんとなく、感じてはいた――ファルクの辛い気持ちは。でも、ファルクなら大丈夫だろうって、そう思っていたから。現に今、真っ直ぐに僕を見てくれているし。謝る必要なんて、どこにもないんだからね。僕たちは仲間なんだから……だから、貸しとか、借りとか。そんなのなしだよ」


「ああ、うん。もう、引け目に思ったりはしない。でも……言っておかないと、気が済まなかったんだ。迷惑をかけてすまなかった、エルス。これから、俺はどんなことでも力になろうと思う。命だって賭けてみせる」


「いや、もう死んだりしたらダメだからね」


 そう答えて、ふたりで笑う。


 それからファルクは、手を差し出してきた。それに、エルスウェンも手を伸ばして、握る。


 がっちりと、強い握手を交わした。


 迷宮へ送り出す時に、ファルクを呼び止めて握手をしたことを思い出す。


 あのときは、どうなることかと思っていた。実際、迷宮内ではひどいことになった。それでもこうして、帰ってきてくれた。握手を返してくれた。


 こんなにも嬉しいことはない。蘇生が成功して、本当によかった。


「ありがとう、ファルク。みんなで協力しないと、あの黒燿の剣士は倒せない。絶対に、君の力が必要なんだ。がんばろう」


 ファルクは力強く頷いて、握手を解いた。それから、少し表情が暗くなる。


「でも、エルス。あいつは……黒燿の剣士は、強すぎるよ。マイルズさんでも、ジェイさんでも、そのふたりが組んでも無理だってことは、よく分かった。あんなの、倒せるわけがない……戦って、よく分かったんだ」


「いいや」


 エルスウェンは首を振った。しっかりとファルクの顔を見返す。


 ファルクはこちらの言った言葉がまだ浸透しないのか、きょとんとしていた。


 ラークが笑って、そんなファルクの肩を叩いた。


「エルスは、全て分かったらしい。ファルク、君の死は無駄じゃなかったんだ。ベルハルトも、アガサもね」


「そんな……本当なのか?」


 信じられない、という顔のファルクに頷く。


「なぜ一切傷を負わないのか、なぜ無敵なのか。その理由が分かった。種明かしは、ベルハルトたち、みんなが揃ってから『サブリナの台所』でやろう。できそうなら、明日にでも話をしたい」


「『サブリナの台所』で?」


 場所としては不自然さはないはずだが、ファルクは聞き返してきた。


 それに頷き返す。


「うん。そこでないとできないんだ。あいつが無傷であることの種明かしはね」


「そうなのか……。というか、黒燿の剣士が全く傷を負わないことには、ちゃんと理由があったんだな?」


「あったんだよ。あのままでは、普通に倒すのはきっと不可能だ」


 エルスウェンは、首を振った。


「ザングが生きていたら、もっと早く分かったはずだった。……最初に彼がやられてしまったのが、事態を複雑化させたんだ」


「そうなのか」


 ファルクは、一瞬暗い顔になったが、すぐに元の顔に戻った。


「でも、倒せるなら、俺も協力する。今度こそ、力になるよ」


「うん。結局のところ、それを外せたとしても、力で上回らないと倒せないからね。そのための戦術は、別に練らないといけないから。頼りにしてるよ、ファルク」


「分かった。任せてくれ」


 ベルハルトたちのパーティが全員生還できたことで、必要な情報は全て揃えることができた。あとは、全員の力を合わせて黒燿の剣士を倒すだけだ。


 が、一応、問題もあるにはある。


 ファルクはいきなり、そこを突いてきた。


「エルス、その無敵の加護を外す方法も、考えついているんだろう?」


「え? いや、それは全然」


「えっ?」


「いや、それを解除する方法はまだ閃いてないんだ。無敵の謎が解けただけで」


 それを聞いて、ファルクが肩をコケさせる。


 微妙な顔だったが、彼はそれでも言ってきた。


「で、でも。大きな前進だろう? だよな?」


「うん。それをどうするかは、ぼくたち魔法使いの問題だ。それを閃くまでは、ファルク、マイルズたちと稽古をしてもっと強くなっていてくれ」


「ああ、もちろん。次はきっと……今よりも役に立ってみせるよ」


 力強く頷いてくれるファルクに、エルスウェンも頷き返した。



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