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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅱ 死闘、絶望

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第73話 底無しの絶望 #2

「分からないかな。なんであんなところに小鬼がいたんだと思う? よく考えてみろよ。あんなところに小鬼がいるなんて、不自然極まりないだろう」


 ラークの問いに、カレンは眉間に皺を寄せた。彼女が口を開く前に、答えを言う。


「魔物たちは全部隠れている。……動いているものを分かりやすくするために、その黒燿の剣士の主みたいなヤツが、隠れているようにお触れでも出したんだろう。そいつはおそらく、エルスが使う生命探知魔法と似たような魔法を使えるんだ。ぼくたちがあの小鬼を殺したことも分かっているはずだ。つまり、あの小鬼は、獲物が罠に入り込んだことを示すためのサインだったんだよ」


「探知の魔法は、古代の魔法で……エルス君しか扱えないはずよ」


「そうならいいけど。相手は魔族だぜ。それこそ、古代から生きている奴が相手かもしれないだろう? それなら魔法は達者だろうし、古代の魔法っていうのがエルスと彼のお母さんだけの専売特許とは、いかないんじゃないかな」


「そんな――」


「そいつは、ぼくたち討伐隊をまんまと迷宮へ誘い込んだつもりでいるんだろう。おそらく、どうやっても不利になるような通路を渡るタイミングか、ぼくたちが緊張で疲れ果てたタイミングを狙って黒燿の剣士を寄越よこして、殺す気だろうな」


 確実に殺すとなれば、そうなるだろう。魔物がいないことに訝しみつつ先まで進み……しかし油断はできず気を張り続け、消耗したところに黒燿の剣士が現れる。


 それも、すでに安全を確保したと思われるところを進んでいる時に、背後から急襲する、というのが理想的だ。


 そこまでやる価値はあるだろう。大掛りな討伐隊が組まれることまでこの魔族が読んでいたら。その討伐隊には、最も優れた探索者たちが選ばれるのは当然だ。それを一網打尽にし、王国の力を弱めることが目的なのだろうか?


 ラークはぞっとした。現に、最強の探索者パーティが三組ここに集まり、女王守護隊の隊長ドゥエルメに、賢者集会の長かつ王国宰相であるアミディエルまでもが、この場にいるのだ。全員が殺されれば、王国は一時的にしろ、大きなダメージを負ってしまうだろう。


 そして、どうなるのか? この魔族は、黒燿の剣士がやったように、地上へ打って出るつもりなのだろうか? かつてラークの母がそうしたように――ただし、愛のためではなく、その正反対の理由のために。


 ラークは、心の中で舌打ちをしつつ、天井を見上げた。見えるわけはないが、頭上より遙か上におわすはずの、魔族の姿を捜す――お前は、一体なにを企んでるんだ?


「でも……あなたの言う通りだとして、どうやってそんなタイミングを見計らって、黒燿の剣士を寄越せるっていうの?」


「魔族は魔法が達者だ。転移の魔法だって使える。ここはヤツらの庭……どころか家の中なんだ。深層階からだろうと、ここまで黒燿の剣士を転移させられないわけがないんじゃないかな」


「剣士には、魔法消去があるわ」


「操る主の魔法まで消してしまうような融通の利かないものなら助かるんだけどね。そうでなくとも、すごい魔法使いなら、無視して魔法をかけられるんだろう? エルスのお母さんがやったみたいにね」


 そこまで言ってカレンはようやく、青ざめた。ベルハルトを見る。


「ど、どうするの? ベルハルト」


 ベルハルトは渋い顔だった。ラークの仮説を一笑に付せない。そんな顔だ。


「……一時、撤退した方がよさそうだな。少なくとも、ラークの今の推理は、アミディエルさんたちに聞いてもらったほうがよさそうだ。俺も……今の推理に穴らしい穴が見つけられん。ここまで、まだ入口付近とはいえ、魔物が一匹もいないのは、おかしい。それは変だと言いきれる」


 ベルハルトは周囲を見回した。彼に闇の向こうが見えるわけはないが。


「……くそ、なんだか不気味な感じがする。すぐに出よう。アガサ、巻物を」


 全員で頷く。すぐにアガサが、帰還の巻物を取り出した。


 ラークも、即時撤退には賛成だった。パーティの命が敵の手のひらの上である以上は、逃げるしかない。


 今まで、狩人として生きてきたというのに。狩られる側に回るというのは、ラークにとっても初めての経験だった。


 しかし、狩る側だったからこそ分かることもある。


 ここまで周到に待ち伏せをされている可能性があるなら、どこかに醜悪な罠も仕掛けられている可能性がある。もはや行軍するのは、無謀を通り越した状態だ。


 罠というものを甘く見てはいけない。それは仕掛けられれば、彼我ひがの情報差によって、まず見抜くことはできない。仕掛けられた以上は、ほぼ確実に引っかかってしまうものが本当の罠なのだ。


 そして。自分を狩る側だと思い込んでいると、自分が狩られる側に回ってしまったことには、往々にして気がつかないものだ。こうして危険を察知できただけ、まだ良いほうなのだと言えた。


 こうなれば逃げの一手しかない。臆病風に吹かれたと言われようとも、撤退が正解だ。一旦、体勢を立て直さなければならない。


「帰還の魔法……発動させます。みなさん、集まって――」


 アガサが言った。ラークも彼女のほうへ向き直った。


 魔法の力を封じ込められた巻物から、すでに帰還の魔法が解き放たれようとしていた。アガサの周囲に、青白い光の円が現れている。その中に四人が入れば、魔法はあやまたずに発動するはずである。


 ラーク自身は、ベルハルトたちが脱出するのを見届けてから、そのあとで、自分も帰還の巻物を使うつもりだった。



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