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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅱ 死闘、絶望

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第67話 迷宮行 #3

 なにかあったのだろう。ラークは、とりあえず訊いてみた。


「君はどっち派なんだい?」


「さあなぁ……。前から分からなかったが、最近はさらに分からなくなった」


 ベルハルトは重い息を吐き出すと、ラークから目線を外した。


 どこか遠くを見つめるようにして、ベルハルトは続ける。


「俺たちのパーティの前衛のひとりは、数ヶ月前に死んだんだ。第五階層でな。降伏した小鬼を見逃してやって……先へ行こうとしたところを、背後から毒矢で撃たれたのさ。蘇生にも失敗した」


「さっきぼくが言った、弓使いの地人の人だね。お気の毒に」


 その話はラティアたちから聞かされてはいたが、降伏したフリをした魔物にやられた、というのは初耳だった。


「その小鬼はどうしたんだい?」


「みじん切りにしてやったさ」


「ふうん……。でも、となれば君たちは、これからは降伏しようとする魔物は、全部殺していくつもりなのかい?」


「それを聞いてどうする?」


「いいや、他意はないよ。それを聞いておかないと、今、降伏する魔物が出てきたときにぼくがどうすべきか、決められないからね」


 ふっと、ベルハルトは苦笑した。


「分からんな。その時の気分によるさ。でもまぁ……今まで通り、見逃してやろうとは思っているよ」


「へぇ?」


 魔物への憎しみは除けておけるのか。興味深く思って、ラークはさらに訊いた。


「どうして? そのせいで、前衛の人が亡くなったんだろう?」


「それは、俺が不注意だったからだ」


 苦笑をさらに自嘲へと変化させて、ベルハルトは首を振った。


「踏破を進めたい焦りがあった。マイルズたちのパーティが、新しい後衛の加入待ちで足踏みしてる隙に、少しでも先に行きたかったんだ、俺は。いや、それに関しては、パーティの全員で合意したことではあった。だが……」


 加入待ちをされていた後衛というのは、まさしくエルスウェンのことだろう。


 ――そういえば、エルスウェンが加入する前のラティアのパーティの後衛は、フラウムともうひとり、誰が務めていたんだろう?


 ラークは疑問に思ったが、ベルハルトに聞くことではないな、と思い直して、話の先を促した。


「だが?」


「俺が甘かったんだ。先を急ぐあまり、注意が足りなかった。本来なら、その小鬼を完全に武装解除しておくべきだったんだよ。その代償は、高くついたな……」


「なるほど。……仕方がなかったと言うのは簡単だけれど、後々自分にできたことがあったんじゃないか、と気づいてしまうのは、辛いね」


「まあな。だが、魔物も必死だろうからな。あんたの……ここが母親の実家だって言葉で、改めて思ったよ。魔物どもにとっちゃあ、ここが家なんだってな」


 ベルハルトはぐるりと、迷宮の通路を見渡した。


「俺たちはいわば、家に乱入してきてものをかっぱらっていく強盗殺人犯ってわけだ。となれば、必死で抵抗もするさ」


「同情するのかい? 魔物たちに」


「いいや。違う。こっちに降伏する魔物だろうと殺す探索者がいるなら、向こうにもこっちを殺して食うことしか考えてない魔物だっている。騙し討ちもな。同情もなにもないさ。ヤツらも、俺たちに殺されたくなければ、この迷宮を住み処に選ばす、どっかの洞穴だのを選べば良かっただけの話だ」


 ベルハルトは、ラークに視線を戻した。


「探索者が探索者になった理由は、それぞれだ。金持ちになりたい、名声が欲しい、腕試しがしたい……大抵どれも、ロクでもないぜ。こんなことに命を賭けてでもやりたいっていう変人の集まりだ。地上には選ばなきゃいくらでも仕事がある。少なくとも安全で、食ってくのには困らないって仕事がな」


「ああ、そうだね」


 ラーク自身、探索者は変人だと思っていたから、素直に頷いた。


「それでも俺たちは、探索者を選んだ。選んだんだから……どうやってやっていくかくらいの自由はある。そうでもなきゃ、やってられないさ。目の前の小鬼を殺すか殺さないか、それくらいは考えて選ぶ権利ってものがある。合理的だのなんだのと理屈を持ち出したら、そもそもこんな、探索者なんてやることが合理的じゃない」


「なるほど。一理あるね」


「そうかい? まぁ、だから俺は……自分の感性を優先してるよ。殺すのも殺されるのも、恨みっこなしさ。ここの魔物は、ここに住むことを選んだ。俺たちは、ここに入ることを選んだ。それなら、あとはまぁ、お互いベストを尽くして、好きにやるしかねえだろう。そういうことさ」


 ふむ、とラークは頷いた。


 マイルズは、ベルハルトのことを『なにも考えていないおめでたいヤツ』と言っていた。


 確かに、おめでたいのかもしれないが。こういう生き方を選ぶ人族もいるのだな、と感心させられる。


 長いこと話し込んでいたが、ベルハルトはもう少し続けるようだった。


「あとは……そうだな。ちょっと話は変わるが、俺が魔物なら、こんなしみったれたところに生まれたら、とっとと出て行きたいと思うだろうな。だから、あんたの母親の話を聞いて、なるほどなと思ったよ。そういう魔物もいるんだってな」


「そうか」


「ああ。あと、俺もあの舞台――『ひとりの男と妖魔の姫』、好きなんだよ。お袋に小さい頃、連れていってもらって見たことがある。あれを見て、探索者になりたいと思ったんだ。正直に言うとな」


「へぇ……そうだったのか。じゃあ、君がこんなところにいるのは、ぼくが原因か」


「ああ、実は、そうなんだ。命を賭けて冒険して、惚れた女のために死ぬ――俺もそういう、自分の信じたもののために生きて死ぬ、そんな人生に憧れてるんだよ」


「すごいな。ロマンチストもそこまで行けば立派だよ」


「劇の作者に言われるとは思わなかったぜ」


 それに、ラークは笑った。ベルハルトも、照れ臭そうに笑っていた。


 そこに、カレンとアガサが加わる。


「探索者になった理由ってわけじゃないけど、私もあの劇、好きなのよ。まさか、作者とこうして会えるだなんて思わなかったけど」


「私は今も、一年に一度は見に行きます……」


「それは、嬉しいな。ファルク君は?」


「えっ? いや、俺は……演劇とかそういうのは、あんまり詳しくなくて……。でも、みんなそんなに見てるんなら、ちょっと見てみたいな」


 ひとりだけ見ていないファルクの反応に、ベルハルトたちが笑う。


「ハッ、じゃあ、この討伐が終わったら、女の子でも引っ掛けて見に行ってみろよ」


「お、女の子ですか?」


「あら、いい子いないわけ? じゃあ、お姉さんたちがついていってあげましょうか。ファルクくんの奢りなら、喜んで行くわよ」


「い、いや。そんな。カレンさんたちに来てもらうっていうのも……。ロイドでも誘って、行ってみます」


「おい、よりによってロイドかよ!」


 今度こそ、全員で笑う。言ったファルク自身もおかしくなったのか、頭を掻きながら大笑いしている。


 ラークも笑いながら――わざわざなんでこんな手の込んだ自殺めいたことをするのか疑問だった――探索者という生き物に、大いに共感していた。


 ――こういう感じなら……いつの時代にも探索者を目指す人たちが絶えなかったというのも、頷けるのかもしれないな。


 死の危険も省みず、わざわざ探索者として生きる。蘇生に成功するかも分からないのに、仲間に背を預け、死地へ身を投じる。


 明らかに馬鹿げている。だが、そうすることでしか得られないものが、確かにあるのだろう。ラークの父も、同じ思いで迷宮に挑んでいたに違いない。


 ベルハルトたちを見ながら、それを実感として、ラークは理解し始めていた。



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