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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅱ 死闘、絶望

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第66話 迷宮行 #2

 ラークはなんとなく、探索者はノープランで、行き当たりばったりに迷宮に潜っているのだと思っていた。そうでない限り、たかが岩山の中にある迷路を数百年以上もかけて攻略できない理由が思い浮かばなかったからだ。


 が、迷宮の現実は相当に厳しいものらしい、ということが、この数日間にエルスウェンから説明してもらったり、訓練所で講習を受けたりしたおかげで、形の上では大体理解できてはいた。


 鍛え上げられた猛者たちが協力し合い、地図や魔物の情報を共有し、そうして数百年をかけても攻略が進まない。現在最も力のあるラティアのパーティですら、第六階層に進んだところなのだ、というのだから驚きだった。


 今は魔物に注意して進むだけとなっているこの第一階層も、完全に攻略されるには数十年と掛かったのだろう。


 もちろん、各時代に、散発的に深くまで進撃する、特に優秀なパーティが現れることはある。それがラークの父だったのだし、エルスウェンの父もそうだろう。


 歴史が進むにつれ、そういった優秀なパーティのスタンドプレイ頼みから、情報を集め、体系的に迷宮を攻略する、という風潮が出来上がっていったらしい。元々王宮は魔物の情報、迷宮の地図作成に対して報奨金を与えるという形でそのスタンスを奨励していたそうなので、時間をかけて探索者たちの骨身に沁みていった、という言い方が正しいか。


 そのおかげで、今の探索者たちは、他の探索者を妨害したりするのではなく、それぞれ積極的にコミュニケーションを取り、情報を共有し合い、探索を進めている。昨日の酒場での集まりを考えても、横の繋がりは非常に強いと言えた。命を賭けた探索に身を投じているのだから、自然と連帯感が生まれるのだろう。


 かつては、利己的な探索者が目立ったこともあるらしい。他人を出し抜いて、自分だけ甘い汁を吸おうとするような――だが、そういう手合いは疎まれ、爪弾つまはじきにされる。肝心の活きた情報が得られなくなる。その末路は死だ。


 他の利己的なパターンとしては、我こそが最初の踏破者だ、と名乗りを上げたい野心を持った探索者というのがある。が、この竜骸迷宮が発見された当初はまだしも、その深甚さが分かってからはいなくなったという。


 それも当たり前だな、とラークは思った。さすがに一代でどうにかできる規模の迷宮ではないからだ。


 だが、もし攻略情報が揃い、踏破目前になったら……とも思う。その時は、我こそが、という手合いが大量生産され、探索者の界隈は混沌とするかもしれない。


 もう少し、探索者の認可を厳しくしてもいいかな、とラークは思っていた。


 流れ者が王都の訓練所から探索者の認可を得るには、書類を提出した上で、特別な技能を審査官に見せる必要があった。あとは一日、簡単な講習を受けるだけでいい。


 ラークの場合、百メートルの位置からの的当てをするだけで、審査官は合格を言い渡してくれた。ジェイの場合は、素手で鉄兜を真っ二つに叩き割ってみせたらしい。どう考えても、そちらのほうが難しいしおかしい。


 曲芸の難度を競っているわけではなく、実力を示せばいいだけなのだから、どちらも合格で当然といえば当然なのだろうが。どことなく、ラークは腑に落ちなかった。


 明らかに、素手で鉄兜を壊すヤツの方がおかしいだろう。しかも真っ二つ。どうせなら、ぼくももっとすごい技を見せてやればよかった――


 嘆息しながら、脱線した思考を戻す。


 もう前方には、左へ折れる曲がり角が見えてきていた。


 ほどなく到達し、全員で足を止める。ラークは、曲がり角の先を伺った。


 全く、魔物の気配はないし、姿も見えない。


 ラークは、感じた疑問をカレン、アガサとルート確認をしているベルハルトに投げることにした。


「なあ、ベルハルト君。いや、この際は誰でもいいんだけどね――」


「なんだ?」


「ぼくは初めての迷宮だから勝手が分からないんだけど、そうそう魔物には出会わないものなのかい? この先にも、全く魔物の気配がないよ」


「そうか。それは……まぁ、妙とは言えない、微妙なラインではあるが……入ったばかりのこの辺りで魔物に出会うってことは、あまりないな」


 ベルハルトは地図から顔を上げて、ラークに首を向ける。


「徘徊型とか巡回型とか言われる魔物ってのは、自分の縄張りをうろついてるだけらしいんだな。で、この第一階層だけでも、王都くらいの広さがある」


「うん。教えてもらったから分かるよ」


「ああ。で……そうだな。例えばある小鬼のグループが、都でいう一区画ぶんくらいを住み処にしていたとする。すると、その小鬼たちは、その区画を徘徊する。根城にしている玄室には、門番としての強い小鬼がいたりするわけだ。それが門番型だ。探索者の遺品やら、この迷宮内からかき集めたお宝を溜め込んでいたりする」


「うん。その区画を一掃するとどうなるんだい?」


「新しく別の小鬼やら……なにやら、新しい魔物が住み着くんだ。前回この辺の魔物は殺したから安心、って歩いてて殺される新人探索者は、ぼちぼちいる」


「どこから補充されるんだい、魔物ってのは」


「上階から降りてくるらしい。魔物は魔物で色々大変らしくてな。上階には強い魔物が多いってことは言ったな? そこで縄張り争いに負けただとか、そういうのが降りてくるらしいぜ。俺は学者どのじゃあないから、詳しくは知らんが……」


 そう前置きをして、ベルハルトは続けた。


「今や、第一階層なんてのは通過していくだけの階層だからな。最近じゃ新人だって、経験を積むのに一回の探索で第三階層くらいまでは挑むことになる。つまり、魔物にとっては過ごしやすいんだ。積極的に俺たち探索者に危害を加えなければ、無視される――つまり、生きていられるってことだからな」


「そうか。魔物も生きているんだから……好きこのんで殺されるような真似はしないってことか。そんな連中もいるんだな。そして、生きやすい階層に集まろうとするヤツもいる、ってことだね」


「ああ。こうして探索者をやってるとな、そういう、どこか人情味のあるというか……そういう魔物に出くわすこともある。鉢合わせして、面食らった途端に武器を捨てて手を挙げて、害意はないって示すヤツがいたりな」


「へえ――」


「そういう魔物だろうとお構いなしにぶっ殺す探索者もいれば、見逃してやる探索者もいる。まあ、どっちが正解なのかは、俺にも分からんがね……」


 そこでベルハルトは、急に苦虫を噛み潰したような顔になった。



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