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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅱ 死闘、絶望

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第60話 悲壮なる決意 #3

 ベルハルトは、ファルクよりは明るく、静かな決意を込めて頷く。


「ああ。それでもだ。俺たちは討伐隊として認められてるんだから、ラークの言う通り、とやかく言われる筋合いはないと思うぜ。なに、お前らにはむしろ、利しかない話だろ? キャリスに、エルスウェン」


 名前を呼ばれて、彼に注意を向ける。ベルハルトは、にっと笑って、彼のパーティの後衛ふたり――魔法使いのアガサ、カレンを示した。


「君らは、黒燿の剣士の魔法消去をどうにかしようと、知恵を絞っているんだろう? でも、まだ名案が手に入らない。そうだよな?」


「……はい」


 エルスウェンは、苦々しく認めた。ここまでの数日間、必死に生家の本を読み解いていたが、まだ知恵は出てこない。


「アガサとカレンは、ふたりなりに対抗手段を考えたらしい。それに穴がないかどうか、アドバイスしてやってくれないか」


「対抗手段を……本当ですか?」


 思わず、声が大きくなった。キャリスも、信じられないという目でアガサとカレンを見ている。


 アガサは、三十歳手前の人族女性の魔法使いだ。


 防御、回復の魔法を得意としている。大人しめで、物腰も丁寧な……そして少々、臆病な暗い人だという印象だった。伸ばし放題にした黒髪で目が隠れ、表情が窺えないのもその印象を加速させている。背はエルスウェンと同じか、やや高いくらいのはずだが、いつも猫背なので本当のところは分からない。


 カレンも女性の人族で、ラティアと同年代の魔法使いだった。


 彼女は攻撃魔法を得意にしている。その中でも特に、爆発を起こす魔法が得意だった。火炎の魔法を得意にするフラウムと、よく言い争いの喧嘩をしている。フラウムによると、金髪、茶色の瞳で外見の特徴が丸被まるかぶり、だが身長がカレンの方が高いというのが、気に入らないらしい。いつもババア呼ばわりをしている。


 性格はちょっと高飛車な……いや、自信と風格があって、実際はかなりの常識人だ――フラウムと口論をするとき以外はだが。でも、気さくに声をかけてくれたり、他の探索者、特に女性の相談相手になっているところをよく見る。姐御肌……とはちょっと違うが、つまり、面倒見の良い、頼りになる大人の女性だ。エルスウェンの認識は、そんな具合だった。


 カレンは自信満々に笑ってみせたりはしなかったが、はっきりと頷いた。


「ええ。ラティアの報告書、私たちもちゃんと目を通したけど。私なら多分、魔法消去は突破できるかもしれないって思っててね」


「カレンさんなら……?」


 彼女の言葉の、そこが引っかかった。


 頭の中で繰り返して、エルスウェンははっとした。


「そうか……。なんだ、そんな単純なことだったんだ……!」


「おや、さすがはエルス君。分かっちゃった?」


「はい。なるほど、確かに、カレンさんなら、魔法を通せるでしょうね」


「アガサの協力も必要だけどね。でも……上手くいけば。と思って」


「な、なんだよ、なになに? エルス、どういうこと? なんでこんな女の魔法が、あのインチキ剣士に効くの?」


 我慢できなくなったフラウムが訊ねてくる。それを、カレンが嘲笑していた。


「エルス君は自分で分かったんだから、あんたも自分で考えなさいよ」


「うるせー! テメーに指図されるいわれはねーんだよ!」


 マイルズの真似をしながら唾を飛ばすフラウム。それをなだめながら、エルスウェンはカレンに言う。


「でもあの剣士には、魔法でもダメージは与えられない。カレン、魔法は通ると思うけど、今のままじゃダメージは与えられないんだ。絶対に倒せないと思うんです。だから……」


「分かってる。最初から、私の魔法はその剣士から逃げるための時間稼ぎのつもりよ。心配いらないわ」


 普段は自信に溢れ、プライドの高いほうであるカレンが、素直に頷いている。


 それを見て、フラウムも言葉を贈った。


「……死ぬなよな、ババア。ケンカ相手がいなくなるとか、寂しいし」


「ええ。大丈夫、やばかったらすぐに逃げるから。ベルハルトを盾にしてね」


 それに、ベルハルト本人は声を出して笑っていた。


「おうとも。なにがあろうと……少なくとも、ファルク、アガサ、カレンは生かして帰す。必ずだ、約束する。俺のことは……まあ、マイルズ、頼むぜ。もし蘇生に失敗したら、約束通り、お前が撒いてくれ。仇も頼んだ」


「約束なんてしてねえよ」


 吐き捨てるように、マイルズが答える。それに、ベルハルトは苦笑した。



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