第59話 悲壮なる決意 #2
ファルクは虚ろな表情で、喋り始めた。
「少なくとも……俺がいたら、展開は変わったかもしれないでしょう。俺がまず、黒燿の剣士に殺されて。その後は、ジェイさんがやったというふうに、ザングが足止めをしてくれて。で、その間にエルスたちが助けてくれれば……俺はたぶん、死んでもまだ一回目だから蘇生にも成功するでしょうし……」
すらすらと述べてみせるそのシナリオは、きっとファルクが頭の中で何度も悔恨と共になぞり続けたシナリオなのだろう。
ファルクが罪悪感を感じる必要なんてない、というのは、マイルズの言う通りなのだが、彼がずっとこの日まで抱えてきたその気持ちのことを思うと、胸が潰れそうになる。
ファルクは、消え入るような声で言った。
「それなのに、俺が逃げたせいで……ザングが死んでしまった。エルスも、ロイドたちみんなを助けるために、一回蘇生を消費してしまった……ごめん、エルス、それも、俺のせいで……」
ファルクが涙目にこちらを見てくる。それに、エルスウェンは首を振った。
「謝る必要なんてないよ。僕は僕の意思で、そうしたんだから。ファルクのせいじゃない。絶対にそんなことはないんだ」
「その通りだ。それに、お前が来なかったおかげで、ジェイが代わりにいたんだ。いたのがお前だったら、お前のシナリオ通りになんて行かず、俺たちのパーティも全員くたばってたかもな」
マイルズの憎まれ口に、ラティアが言い過ぎだと目で牽制する。
その間にファルクは呼吸を落ち着けて、言った。
「俺……馬鹿なことを言ってるって分かってます。たぶん、死ぬってことも。でも……逃げて、そのままじゃ……俺、ロイドたちのパーティの一員どころか、探索者の資格もないって思うんです。マイルズさんの言葉は……ありがたいですけど。ここで逃げたら、俺はもう、絶対に戦えなくなってしまう。それくらいなら、戦って死なせてください」
悲壮な決意に満ちた眼で、ファルクは結んだ。
「……俺は、俺の意思で言ってます。ロイド、お願いだ。ベルハルトと行かせてください。黒燿の剣士と、戦わせてください。俺は……逃げたくないんです」
「ファルク……」
ロイドもまた、泣きそうな顔でかぶりを振るばかりだ。
無茶だと分かっていても、ファルクの言いたいことも分かるだけに、なにも言えない――そんな空気で、全員がやるせない表情になっていた。
と、黙って腕を組んで聞いていたラークが、口を開いた。
ラークのことは、ここで顔を合わせた最初にみんなに紹介してある。百年以上生きた半魔族ということも、弓矢の達人であるということも、包み隠さず。そしてパーティに加入するため、すでに探索者として登録を済ませてあることも。
そのときに誰も反発はしなかったが、今になってエルスウェンは不安になった。彼は超然とした物言いをするから、大丈夫だろうか……。
懸念通り、ラークはこの場の雰囲気に全く合わない、明るい声で言った。
「いいんじゃないか。汲んでやりなよ、彼の気持ちを」
「おい、適当なことを――」
身体ごとラークの方へ向けて食ってかかろうとしたマイルズに、彼は遠慮なく、涼しい目で続ける。
「彼がああ喋って、それを黙って聞いてるってことは。君たち全員、ファルク君の気持ちは分かるってことだろう? 探索者たるもの、ただ意味もなく生き残るよりも、戦って死にたいと思うことだってある。そういうことだろう?」
「テメエは、ファルクに死ねと言ってるんだぞ。蘇生だって、必ず成功するわけじゃねえんだ!」
「彼がそうなってもいいと覚悟して言っているんだから、なんの問題がある? 君こそ、言っていることがおかしいよ。ファルク君の命は、ファルク君の命だろう。君にああしろこうしろなんて言われる筋合い、彼には最初からないんじゃないのかい?」
「テメエ――」
ラークの言葉に、椅子を蹴って立ち上がるマイルズ。
それを、ラティアが鋭い声で制した。
「やめろ。マイルズ。暴れるなら店から叩き出すぞ」
有無を言わせぬ調子だった。こうなったときのラティアは恐い。
マイルズは舌打ちをひとつして、椅子を直し、大人しく席に戻る。
「ラークもだ。あまり挑発的な物言いは控えろ」
「了解いたしました」
丁寧に頷くラークには、気にした様子もない。口笛でも吹きそうな顔だ。
注意を与える手前、口を開いてしまったラティアが、ファルクを問いただす。
「本気で、言っているんだな? 死んでも構わないから、ベルハルトたちのパーティと共に行きたいのだと。マイルズの言う通り、ファルク、いくら君が若かろうと、蘇生が必ず成功するわけではない。灰となれば、すべて終わりだ。それでも……行きたいと言っているのか? 君に死んでほしくないと、全員が思っているのにか?」
「……はい。みんなには、目をかけてもらって……本当に、感謝しかありません。でも、俺は……そんなみんなを、裏切ったんです」
「誰も、それを咎めてはいないんだぞ? 前衛であれば、君のような恐怖心を全員が味わっているんだ」
「はい。……それでも、自分で、自分を許せないんです」
ファルクはこの期に及んでも頷いてみせる。これは自暴自棄になっているわけではなく、固い決意によるもののようだ。
エルスウェンにも、彼の気持ちはよく分かった。ザングの葬儀の後の酒場では、実際にパーティを離脱しようとさえ思っていた。
ファルクも、探索者であることにある種の矜恃を持っているはずだ。そういうものがなければ、そもそも探索者など志さないし、続けることもない。
パーティを裏切ってしまった、というよりは、自分で自分を裏切ってしまった――そのことが、重くのしかかっているのだろう。そしてそれは、他人の手ではなく、自分の手でしか雪ぐことはできないのかもしれない。
ラティアは額に手を当てて、深々と嘆息していた。
もう、第三者に止める手立てはないのだ。ラークの言う通りに思えた。
次にラティアは、ベルハルトを見た。そして、告げる。
「貴殿らは黒燿の剣士を知らない。接敵すれば、必ず殺されるぞ。接近する気配も、音もない。漆黒の鎧のため、目視も困難だ。気付く前に間合いに入られ、一刀で確実に殺される。ザングがそうだったようにだ」




