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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
いっぽう、そのころ

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第54話 マイルズとファルクとベルハルト #3

「あ、マイルズ! 稽古は?」


「終わった。俺はな」


 答えながら、そちらへ歩み寄る。小さなテーブルには本が何冊か積んである。一番上のものの表紙を読もうとしたが、古語で書かれていて読めやしない。


 ロイドが足元から訊ねてくる。


「ファルクは?」


「ベルハルトの奴が来てな。今はベルハルトが稽古をつけてやってるよ」


「あ、ベルハルト、マイルズのところに勧誘にこなかった? ベルハルトたちのパーティ、黒燿の剣士の討伐隊に志願して、認められたって」


「ああ、知ってるし、勧誘に来た」


「な、なんて答えたの?」


 不安げなロイドの声に、思わず笑ってしまう。本来が同じパーティだというわけでもないのに、なにを心配しているのか。


「断ったさ。ベルハルトと組んだところで勝ち目はねえ。少なくとも、あの剣士を知っているヤツとじゃなきゃ、組めねえよ」


「そうかぁ、そうだよね。よかった」


 ロイドは、心から安心しているようだ。


 が、すぐにキャリスが鋭い目で、訊ねてきた。


「ファルクは、ベルハルトと話をしていましたか?」


 努めて冷静な声に聞こえた。が、頭の回る魔法使いであるキャリスのことだ。ファルクに対して、懸念があるのだろう。


 その内容については、想像がつく。


「いや、まだ見てねえな。まぁ、この後に関しては、分からんがな」


「ベルハルトがファルクを勧誘する、ということはあり得ると思いますか?」


 矢継ぎ早の質問に、マイルズは肩をすくめた。


「そうまで向こう見ずな奴だとは思いたくはないが。腕のいい前衛ってのはそうそう余ってねえ。ファルクはとりあえず、お前らのパーティってだけでこの徽章を持ってるし、一番手っ取り早い。あと前衛を捜すとなれば、もうドゥエルメのオッサンくらいしか誘える奴はいないだろうな」


 つまり、ベルハルトたちが黒燿の剣士へ挑みたければ、ファルクを仲間に引き抜くしか手はない、ということだ。


 深く嘆息して、キャリスは黙り込んだ。ロイドは、こちらとキャリスを交互に見て、困惑している。


 マイルズは手近な壁にもたれると、腕を組んだ。


「ベルハルトたちを止める手段もねえだろうし、とりあえず成り行きに任せるしかねえだろうな。ひとまずは、賢者どの謹製の徽章もあることだし、全滅したとしても死体を回収できないってことはねえんだ。ファルクはまだ若いし、蘇生をしくじることもねえだろうよ」


 我知らず、言い聞かせるような調子だった。それに自分で苦笑する。


 と、ロイドが訊いてきた。


「ねえ、俺たちが一緒に行って、ベルハルトたちをサポートするっていうのは……」


 その提案には、首を振った。


「却下だ。あの剣士を知らない、足手まといにしかならないパーティについて行ってなにするってんだ。枕を並べて討ち死にするだけだぜ。喜ぶのは『祝福の聖堂』の司祭たちだけだろうよ」


「……だよね」


 最初から無理なことは分かっているが、とりあえず口に出してみるあたり、ロイドはお人好しだ。だが、これでも危険の匂いには特に敏感な、優秀なリーダーである。


 大方、道中でなんとか機を見てベルハルトたちを止められないか、と思っていたのだろうが、さすがに同道はリスクが勝ちすぎる。彼らは、黒燿の剣士と実際に相見えて、痛い目を見なければ学習しないだろう。


 痛い目どころか、かなりの確率で死ぬわけだが。


 と、ロイドは俯いていた顔を上げた。


「でも……むざむざ死なせたくはないよ」


「ハッ。エルスの性格がうつったか?」


「はは、そうかも。でも、ファルクはまだ若くて、探索の勝手もまだまだ分かってないんだ。ああ……しまったなぁ。俺があのとき、ファルクの代わりにそもそも、ジェイを誘って迷宮に入ったりしたから……」


「おい、よせよ」


 陽気な小人族に落ち込まれると、気味が悪い。マイルズは首を振った。


「終わったことをぐちゃぐちゃと言ったところで、どうしようもねえだろうが。諸悪の根源は、あの黒燿の剣士なんだ。お前が自分を責めてどうする」


「でも。これでファルクまで逝っちゃったら、俺は……」


「それは探索者として、覚悟していないといけないリスクだ。死んだら自分の責任だ。ファルクが死んだとしても、お前が背負うことはない」


 ロイドは、力無くかぶりを振った。なにも言おうとはしない。


 それはそうだろう。そんな割り切り方など不可能なのは、マイルズ自身、よく分かっている。


 あまりにも中身のない発言をしてしまったため、黙ってもいられない。とりあえず、キャリスに話を振ることにした。


「……一番いいのは、ベルハルトたちよりも先に迷宮へ潜って、アレを仕留めちまうことなんだけどな。さすがにそれは無理か。キャリス、なにか分かったことはねえのか?」


「多少は、前進しています」


「本当か!?」


 予期してもいなかった返事に、壁から背中が浮く。


 が、キャリスの表情を見るに、特効薬が見つかった、というわけではないらしい。


「多少しか前進していない、とも言えます。結局のところ、魔法消去をどうにかしなければ、私たち魔法使いは無力ですから。そのための方法は思いついていません。エルスたちがなんらかの手がかりを得てくれていることを祈りましょう」


「結局、そこか。魔法が通じねえってのは……戦力が半減するようなもんだからな。エルスの探知までうまく効かねえ、とくれば、五分から戦闘を始めなきゃならねえ――いや、五分未満か。こっちが圧倒的に不利だ」


 あの怪物のほうが有利な状況で戦う、というのは無謀極まりない。だが、マイルズにどうにかできることでもない。


 ひとまずは明後日の合流日まで、ドゥエルメに稽古を付き合ってもらい、少しでも剣技を磨いておくしかない――マイルズにできるのは、それくらいだった。



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