第50話 キャリスとアミディエル #4
「ベルハルトたちのパーティが、どうかしたのですか?」
「うん。ベルハルトたちも、黒燿の剣士の討伐に参加するんだって」
「そうですか。許可が出たのなら、問題はないのでしょうが……」
キャリスは、ちらりとアミディエルを見た。彼は、静かにこちらの会話の内容を伺っている。口出しはしてこない。
ベルハルトたちといえども、黒燿の剣士には敵わないだろう。キャリスは、自然とそう考えていた。あの剣士には、真っ向から戦っては誰も敵うわけがないのだ。おそらく、王都の探索者の誰よりも武芸に秀でている。
どうにか理でもってベルハルトたちを止められないか――とは思うが、同じ討伐隊でありながら止める理由はないだろう。常軌を逸した強敵だとは百も承知で、彼も手を挙げたのだろうから。下手に声をかけては、手柄を先んじられたくないがための嫉妬とも受け取られかねない。
ベルハルトは人格者なのでそうは思わないだろうが。どれほど言葉を尽くしても、生粋の探索者である彼を止めるための言葉は、思いつきそうになかった。
が、違うことに思い当たる。
「彼のパーティには、前衛が足りないのでは? まさか、三人で潜るということではないでしょう?」
「それなんだけどさ。ほら。ラティアのパーティで、エルスが抜けるって話をしたじゃない。で、マイルズとエルスが、他から見るとほら、仲が悪いというか、ウマが合わないように見えるじゃない」
ロイドの言わんとすることが察せられて、キャリスはなるほどと頷いた。
「実際は、そんなことはあり得ないんですがね。マイルズは、本当にエルスウェンのことを気にかけて、可愛がっていますよ。厳しい言葉も、エルスの若さと、その真っ直ぐさを諫め、万が一の事故を起こさぬように導くためですから」
「そりゃあ、俺たちは分かってるよ。でも、よそから見たら、本当にマイルズかエルスか、どっちかが抜けるかもしれないって見えることもあるわけじゃない」
実際に、ザングの葬儀のあとは、酒場でそういう話になりかけた。
エルスウェンは彼なりに責任を感じていて、それについて思い詰めていたようで、あの時はキャリスも、少々心配した。
そして、マイルズやエルスウェンが現パーティを抜けた場合。ふたりを自パーティに勧誘したい、というパーティは多いはずだった。
マイルズは傍目には粗野な態度の目立つ豪傑だが、実際は真面目で理知的、決して無理押しをしない、常にパーティを考えて行動できる現実主義者だ。戦士としての腕前は現探索者の中では最強であり、超一流の前衛と言える。
エルスウェンは若き天才魔法使いであり、その名はこの王国の女王にも届いているほどだ。若く、理想に燃え、無鉄砲なところがあっても、それを補って余りある魔法の力と知性、機転を備えていて、特に彼にしかできない索敵、無制限に使える回復魔法はどんなパーティにとっても魅力だろう。
「つまり……そうですね。ベルハルトは、マイルズを勧誘して、黒燿の剣士の討伐に向かう、ということですか?」
「そういうこと! よく分かったね!」
「まぁ、ベルハルトたちには、前衛が足りていないんですから。後衛のエルスを誘うわけがありませんからね」
キャリスは眼鏡を直した。
「マイルズは、それに了承したんですか?」
彼とは親しいが、そういった判断まで咎め立てする義理はない。世話になっているパーティを一時的に抜けて、よそのパーティで戦う、ということは、探索者にとっては珍しい話でもない。よくあることだ。
ロイドは質問に首を振った。
「分かんない。さっきベルハルトから、討伐隊に認められたって話を聞いたとき、マイルズを誘おうと思うんだ、って言われてさ。とりあえず、キャリスに話そうと思って。今頃、訓練所に向かってるんじゃないかなぁ」
「そうですか……」
キャリスは、瞑目して考えた。忍者のジェイと、マイルズのふたりがかりで戦っても、あの黒燿の剣士には傷ひとつ負わせられなかった、とエルスウェンが語ったのを思い出す。
ベルハルトとマイルズの組み合わせなら、どうだろうか?
可能だとは思えなかった。キャリスは、忍者のジェイの姿を思い出していた。
ジェイは、戦闘の達人だった。
あの、黒燿の剣士と遭遇してしまった探索――あのとき、三日先行していたラティアたちのパーティに追いついたのは、ジェイの戦闘力が高すぎたことが理由なのだ。
マイルズは、エルスウェンに対して、お前がよそのパーティにかかずらっていたせいで――と怒声を張り上げていたが。あまりその影響はなかっただろう。
ジェイは、ザングが魔物を一体処理する間に、三体を処理するほどの強さを持っていたのだ。
魔物と接敵するや否や、瞬く間に距離を詰め、もっとも手強い敵に狙いを定め、素早い身のこなしで翻弄し、隙を突いた一撃を急所へ叩き込む。第三階層までの魔物は全て一撃で仕留め、彼自身は攻撃を受けることすらなかった。
ザングも、キャリスも、ロイドも、ほとんどジェイの後を歩いていくだけだった。戦利品が鑑定する価値もないガラクタばかりだったとはいえ、だから、たったの一日という破格の速度で第三階層に行き着いたのだ。
ひとりで迷宮に潜り腕試しをしていた男が、弱いわけはないのだが。あまりの常識外れな強さに、目を疑ったものだ。
喩えるなら、彼はまさに戦闘機械だった。粉挽き機が穀物を挽き潰していくように、淡々と、魔物から魔物へと狙いをつけて殺傷していく。それ以外に機能を持たない、戦闘のスペシャリスト。それが忍者、ジェイだった。
キャリスはベルハルトの腕前を知らないが、マイルズより確実に優れているとは思っていなかった。まして、ジェイよりも上だとも思えない。




