表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
いっぽう、そのころ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/169

第48話 キャリスとアミディエル #2

 が、しばらく黙っていたアミディエルは、こちらを気遣うように視線を寄せて、言った。


「……あの黒燿の剣士は、なにか特定の魔物の種族であるとか、迷宮内で発狂した生きた探索者である可能性は、ほぼないと思われます。例のない存在です」


 いきなり話が飛んだが、アミディエルはその切り出しに迷っていたのだろう。


 彼の言葉を受けて、キャリスは答えた。思考を再開させる。


「そうでしょうね……。考えられることは、迷宮内で力尽きた探索者が、邪悪な魔法によって蘇らされて、操られているか……あるいはあの剣士には中身がなく、武具がなんらかの魔法によって魔法生命体として操られているか……」


 途中で、キャリスは首を振った。言い直す。


「後者はあり得ませんね。ジェイ、マイルズがあしらわれるほどの強さの魔法生命体を生み出せる魔族がいるとは思えない。なので、前者になるかと」


「その通りでしょうね。ご慧眼、感服します」


 アミディエルは感じ入ったように頷くと、キャリスの推察を補強した。


「黒燿の剣士は、魔法で操られている死体である――これはほぼ決まりです。シェ――いえ、あのエルスウェン君の母君が、この王都を襲撃した黒燿の剣士を、送還の魔法で迷宮へ送り返しました。送還の魔法が通じたということは、主がいて、黒燿の剣士は下僕、使い魔の扱いであるということです」


「なるほど……。そういうことですか」


 エルスウェンの母が送還の魔法を使った、ということはキャリスは詳しく聞いていなかったため、素直に頷いた。


 アミディエルは相槌を打つと、話を進めていく。


「ええ。あの黒燿の剣士が使い魔であるなら、対抗手段もあります。たとえば、黒燿の剣士に魔法を掛けた魔族を捜し出して殺してしまえば――主を失えば魔法も効力を失いますから、黒燿の剣士を無力化できるでしょう。もうひとつは……」


「『解呪』ですね」


 キャリスが答えると、アミディエルは厳かに、神妙に頷く。


「はい。解呪の魔法こそが、あの黒燿の剣士に対する打開策になるのではないでしょうか。解呪の魔法をかけることができれば……途方もない強敵ですが、操るための魔法を打ち消して、一息に決着を着けることができるかもしれません」


「……そうでしょうね。黒燿の剣士が、かつて迷宮で命を落とした探索者の亡骸であり、魔族がそれを操っているというのなら……解呪が有効でしょうね」


 重く、ゆっくりと、キャリスは頷いた。


 解呪の魔法は、難易度が高い魔法である。


 その基礎は、迷宮の瘴気を退けるための破邪の魔法であると言われる。


 破邪の魔法を応用、発展させていくと、迷宮の瘴気や、魔物の発する瘴気、あるいは悪意をもった魔法のもたらす影響をも退ける効果を持つようにできる。


 ただ、邪悪な瘴気のもたらす影響や魔法のもたらす影響には、様々な種類がある。解呪の魔法が著しく高難度な魔法であるとされるのは、そのせいだった。


 解呪の魔法は、瘴気の影響、魔法の影響、効果、それに合わせたイメージを用いねば成功しない。万能鍵のような魔法は存在せず、たとえば五つの呪いに対しては五つの別種の解呪魔法が必要になる、ということなのだ。


 『祝福の聖堂』においては、解呪は司祭や神官が簡単に魔法をかけて終わらせるのではなく、ひとつの儀式として取り組む。


 呪われた装備品の解呪の場合は、大司祭が呪いの種類を鑑定し、呪いを特定したあと、解呪の魔法を持つ司祭が十人がかりで力を合わせ、適切な魔法を唱えるという儀式を行う。迷宮や魔物の瘴気に当てられた探索者の解呪も、同じ手順で行われる。


 聖堂で行われる解呪だけでも、これほどの手間がかかる。なので、解呪の儀式に対する寄付金額は、蘇生の儀式までとはいかなくとも、かなり値が張った。探索者たちの間でこの聖堂が『着服の聖堂』とか『収賄の聖堂』と揶揄される所以でもあった。


 アミディエルは、キャリスに訊ねてきた。こちらを慮るように、穏やかな声音だ。


「探索者においては……かつて司祭の経験を持っているキャリス殿だけが、解呪の魔法を使いこなせるはずですが……」


「ええ。しかし――」


 キャリスは首を振った。言葉が、勝手に出ていく。


「現実的な作戦とは……あまり言えないかと。あの剣士を誰かが、解呪の魔法が完成するまで足止めをする必要があります。そして、魔法消去の加護は、解呪の魔法すら無効化してしまう……」


 必死にできない言い訳を探しているようだと、キャリスは自分で思ったが。


 そこまで喋って、キャリスはふと引っかかるものを覚えた。アミディエルと、そもそもなんの話をしていたのか――


 はっとして、キャリスはアミディエルを見た。彼はこちらが気づいたことに気づいたのか、頷く。


「そうです。黒燿の剣士……というか、その主は、攻撃魔法から黒燿の剣士を守るために魔法消去の加護を与えたのではない」


「……そうか。解呪の魔法を防ぐため……!」


「そう考えれば、全て辻褄は合うでしょう。迷宮内の魔族が、強力な探索者の死体を手に入れ、それを魔法でもって下僕に仕立て上げた。ただ、解呪を使われれば、操るための魔法は外され、無力化されてしまう。それに対抗するため、魔法消去の加護を与えた――ひとまずは、こんなところでしょうか」


 アミディエルは、魔物、魔族についての考察が記されている古書『魔界論』を手に取ると、表紙を撫でた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ