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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅰ すべての始まり

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第45話 新たな仲間 #9

「ふむふむ……話はよく分かったよ。けど」


 怪訝そうに、彼はラティアとフラウムを見た。


「湧き水とアロエが、なにか打開の手がかりになりそうだったのかい? 化粧品でも作るのかと思ってたよ」


「いや、それは……うん。まああれは、息抜きの散歩だったから」


「ふうん」


 実際、あまり気にしていたわけでもないのか、適当に頷かれる。


 それから、彼はまた虚空を見上げた。


「知らないうちに、世間はそんなことになっていたのか。しかも、その……黒燿の剣士? それが、君のお父さんかもしれないなんてね。そして、君のお父さんは、君が産まれる前に迷宮で行方不明になっていて……」


 そこでふっと、彼は笑う。


「どうも、他人事とは思えない話じゃないか。……どうやら、これが縁ってやつみたいだね」


「縁?」


 エルスウェンが聞き返すと、彼は目を眇めた。


「ああ。母の口癖……というか、考え方だった。人と人の間には縁がある。出会いには意味があるんだってね。互いに、人生に大きな影響を及ぼし合うような相手とは、必ずどこかで出会うことになる。だから……そういう人に出会ったと思ったときは、それが男だろうと女だろうと――たとえ、魔物だろうと。その相手に、己の全てを賭けて報いてあげなさいって。そうしてきて、私は本当に幸せだったから……ってね」


 そこまで喋り、彼はエルスウェンの目を、真正面から見てきた。


 紅玉のように輝く彼の瞳を、こちらも真っ直ぐに見つめ返す。


「平坦な人生でいいと思っていたんだ。父と母が、命を賭けて生み出してくれた命を浪費するわけにはいかないから、好きなことをしてのんびり生きていればいい、ってね。でも、それはどうやら、間違いだったみたいだ」


 男は、手を差し出してきた。握手のための手だと分かった。


「なにぶん、戦いにおいては素人だけれど、弓の腕なら……まぁ、ちょっとしたものさ。これで力になれるのなら、喜んで力を貸そう」


 エルスウェンは、できるだけ力を込めて、その手を握り返した。


「ありがとう。頼りにさせていただきます」


 彼も、はにかみながら頷いてくれる。


 そこに、ジェイが声を掛けた。


「だが、力がなければ死ぬだけだぞ。少なくとも、弓の腕くらいは、まともに見せてもらわねば。あっさり死んでは、その父母に申し訳が立たんだろう」


 迂遠ではあるが、力を見せてみろ、という、ジェイの言葉だった。


 意味はもちろん、彼も理解している。立ち上がると、髪をかき上げる。


「なにをしてみせればいい?」


「お前の弓矢は、魔物を殺せるか? 昨日はわざとらしく、『やらない』と言っていたな。『やれない』ではなくて」


「そうだったっけ? じゃあ、言い直そう。『殺せる』ってね」


 彼は周囲を見渡すと、続けた。


「この辺りにも、はぐれ魔物がたまに出る。家の近くにやってきたときは、撃退しているよ。降りかかる火の粉は、払わないといけないからね」


「迷宮の魔物は、地上のはぐれ魔物とは比べ物にならない瘴気を吸っていて、凶暴で強靱だ。お前の弓矢が、迷宮でどれほど通用するかの証明にはならん」


「なるほど。じゃあ、今から迷宮に行って試してみるかい? でも、王宮の許可が無いと、もう入れないって言ってなかったっけ?」


「ああ、そうだ。だから、俺に撃ってみろ」


「ジェイ」


 提案に思わず、エルスウェンは声をあげた。が、ジェイは手を挙げてこちらを制すると、彼に続けた。


「俺はあの剣士と戦った。俺に納得をさせてみせろ」


「オーケー」


 彼は頷いた。矢筒から矢を引き抜き、三本、馬手めて――右手に持つ。弓手ゆんで――左手には、背負っていた弓を持ち直した。


「どうすればいいのかな?」


「間合いは十メートル。矢を俺に当てられればお前の勝ちとして、認めよう」


「おいおい。ぼくの矢が当たったときは、死ぬときだよ?」


「俺は探索者としての祝福を受けている。歳は十八だ。まず、蘇生の失敗はすまい。遠慮なく、眉間でも喉でも心の臓でも金的でも構わない、射掛けてみろ」


「オーケー。そういうことなら、遠慮なくいかせてもらおうか。というか、本気でやらないとその時点で落第だろう?」


「無論だ」


 そのやり取りの中の情報では、ジェイが十八歳だということに驚いたが。


 どうやら、止めても無駄だということは分かっていた。エルスウェンは目でラティアに問うが、彼女もまた、諦めたようにかぶりを振ってくる。


 その頃には、もうジェイは男から十メートル離れた場所に移動していた。


 男は、ジェイに声を掛ける。


「本当にいいんだね? 死んでも」


「ああ。やれるものならな」


「分かった。じゃあ、二度は訊かないよ――」


 言って、男は矢を弓へと番えた。矢も弓も、なんの変哲も無い木の弓矢に見える。


 残りの二本の矢は、馬手の小指と薬指で握っている。そのまま、ぎし、と軋む音を立てながら、弓が引き絞られる。


 エルスウェンは息を呑んだ。ジェイが死んではいけないが、この勝負が一体どうなるのかも、気になった。


 相手の呼吸を読み、あるいは読めない相手であろうと、回避に全霊を傾ければ無傷だというジェイに、この男は矢を当てられるのか?



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