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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅰ すべての始まり

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第43話 新たな仲間 #7

「ええ。それは……僕の遠い母です」


 ひゅう、と男は口笛を吹いた。


「やっぱり! そうだろうと思った。彼女の子孫ってことか。なら、同じ変わった魔法を使うのも頷けるな。どこか、雰囲気も似てたし。だから気になったんだ」


「あなたにも、母さんと似たものを感じるんですが。あなたは……」


「似たものを? ああ、そうか――」


 言って彼は、肩をすくめた。


「ぼくが似ているのは、どちらかというと君の方じゃないかな」


「え?」


「あの森人の賢者の人とは、単なるご近所さんさ。会ったら挨拶をする程度の……まあ、あんまり親しいわけじゃないけど、敵視してるわけでもない。向こうもこちらも、互いにそっとしてるような感じだね」


 そこまで喋ると、彼は兎を地面に置き、弓を背負った。それから、こちらへ歩いてくる。


 ほとんど目の前まで歩いてくると、彼は地面に腰を下ろした。


 手を広げて、キザな笑みで言ってくる。


「ぼくのことを話してもいいよ。君たちは、悪人じゃないように見えるし。ぼくのことを知っても、どうこう言わなさそうだしね。君たちも、こみ入った事情があるんだろう? そこのところを、胸襟を開いて話し合おうじゃないか」


「はい。ぜひ、聞かせてください。それで――」


 エルスウェンの言葉に、男は笑って割り込んだ。


「探索者の仲間になってほしいって?」


「ええ」


「ははっ。オーケー、気持ちに正直に言うと、結構興味が出てきてる。平坦な人生が目標だったけれど……こういう面白い出会いっていうものがあるとね」


 エルスウェンたちも、男の前に座った。車座になり、それから、彼は話し始める。


「ぼくについて説明をすると……そうだな。僕はいわば、半魔族なんだ」


「……半魔族?」


 それには、エルスウェンだけでなく、ジェイも、フラウムも、ラティアも疑問を浮かべる。高位の魔物を指す言葉である魔族ならともかくとして、半魔族というのは、聞いたことのない言葉だった。


 男は全員を見回してから、頷いた。


「そう。父は普通の人族だった。母が変わり者……というか、魔物でね。魔族の内のひとつ、淫魔だったんだ」


「淫魔にたぶらかされた親父さんが、淫魔と子供を作った、というのか」


 ジェイの言葉に、男は声を上げて大笑いした。


「まさにその通りなんだよ。父は、探索者だったらしい」


 笑いすぎてこぼれた涙を人差し指で拭ってから、彼は遠くの空を見上げた。


「あの迷宮に挑んでたんだよ。君らみたいにね。で、迷宮内で淫魔の母に襲われて――どういうわけか、その時に互いに一目惚れ、だったらしい」


 淫魔というのは、迷宮に巣食うといわれる魔族のひとつだ。今までの探索の歴史によると、第七階層以降に到達したパーティが遭遇した記録があると、エルスウェンは訓練所時代に習っていた。


 元々、魔族の生態というものは謎に包まれている。


 遙か古代に、異人種族たちと覇権を争っていた存在であり、どこから来たのか、どういった社会を持ち、どうして敵対していたのかなど、今となっては謎となってしまった事柄が非常に多いという。もちろん、なぜ迷宮の奥に巣食っているのか、ということも誰も分からない。


 ひとまず判明しているところとしては、魔族は一介の魔物とは比較にならない知能を持つ、ということだ。彼らは独自の言語を操り、かつ魔力に長けた存在であるということが分かっている。


 そして、もうひとつの異人種族と言っていいほどに、見た目は人としての特徴を持っている、といわれていた。ただし、魔族同士の横の繋がりは薄いものらしい、とも伝わっている。それゆえにかつての異人種族との覇権争いに敗れたのだとも。


 しかしまさか……探索者に一目惚れをして、子供までも作った魔族がいるなんて、全くの初耳だった。


「へー。色々とスケールでかいね」


 彼の発言は相当な重大事だと思うのだが、フラウムは興味津々に頷いている。


「だろう。子供のこっちとしては、聞かされたときは面食らったよ。それもまぁ、淫魔っていうのはこっちの世間の常識なんて持ってないわけだから。子供に聞かせるような話じゃないことを、母は喜々として語るわで……」


 脱線したことを自覚したのか、彼は苦笑して首を振った。


「母は迷宮を出て、父を追いかけてこの地上に出てきたらしい。で、父は父で、探索者をやめて、この街外れに小さな小屋を建てて、一緒に暮らすことにしたらしい」


「えー、すごっ。ラブだねー! で、その先は? どうなったん?」


 フラウムが先を促す。


 男は遠い目を戻した。こちらを見て、言ってくる。


「淫魔というのは、魔物、魔族の中でも優れた魔法を操る。森人並にね。そして古代においては男に淫らな夢を見せることで、生命力や魔力を奪い取っていた。あるいは直接吸い取ったりもするらしい。そうやって生きているんだ」


「うんうん、知ってる知ってる。で? で、どうなったん?」


「だから母はもちろん、普通の食事なんて摂れない。人の持つ生命力と魔力だけが栄養なんだ。迷宮内で瘴気を呼吸していれば平気だと言っていたけど、この地上ではそうもいかなかった。ぼくの父は、その生命力の全てを母に捧げて、死んだんだ」


 それを聞いて、さしものフラウムも硬直する。


 エルスウェンも、訓練所でかつて習ったことを思い出していた。蘇生に関する注意事項だ。


『高位の魔物である魔族――吸血鬼、夢魔、淫魔、妖魔、悪魔の操る生命力を直接奪い取る類の攻撃で命を落とした場合、蘇生は原則不可能である』


 気にせず、彼は話を続けた。



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