第42話 新たな仲間 #6
「馬鹿を言え。たかが狩人に背後を取られるほど怠けちゃいない。なにをした」
「すごい自信だね。そういうあなたは? どういう人なんだい?」
「俺はジェイ。忍者だ」
「ニンジャ……? 聞いたことがある。東方の、戦闘のスペシャリストか。それなら、腹を立てる理由にもなるな」
男は、両手を広げてみせた。
「でも、ぼくだって狩人だからね。獲物に気づかれないように、背後から忍び寄るのは得意にしているんだよ」
「そんな生っちょろいものじゃないだろう。なにをしたんだ、と聞いている」
「おいおい……君をおちょくっているわけじゃない。そんなに怒らないでくれ」
エルスウェンは、言い合うジェイと男を、つぶさに観察していた。
男には、昨日と違うところがあった。
右手には、仕留めたのだろう、矢が刺さり、息絶えた兎を持っている。
左手には弓を。
胸元には、見たことのない紋章を象った首飾りが光っている。
そして肩には、細い矢筒を掛けていた。それを見て、エルスウェンは訝った。
矢筒に入っている矢は、たったの三本だ。
なぜだか、違和感があった。彼ほどの名手であれば、狩りに出るときにはその程度の矢の本数で済むのだろうが……それは答えではない、と分かる。
矢筒が異様に細く、小さいのだ。それこそ、そもそも矢を三本か、四本しか入れられないのではないか、と思えるほどだ。
普段からこの男は、この本数の矢しか持ち歩かないのだと、エルスウェンには確信めいたものがあった。
男は、にっと笑い、エルスウェンに話しかけてきた。
「君、面白い魔法を使うんだね。見たことがない……っていうのはウソなんだけど。君にもあの魔法は使えるんだね」
「生命探知の魔法を知っているんですか? あなたは……魔法も扱える?」
エルスウェンは反射的に質問していた。男は、特に気にした様子もなく、頷く。
「魔法は使ったことがないけど、人がそれを使おうとしたり、使っていることは分かるよ。まあ、特殊な才能みたいなものでね」
才能? どういう意味だ――
と、考えているとフラウムが言った。
「あんた、エルスの生命探知魔法をすり抜けたってことでしょ? どういうこと? どうやったの? そんなこと、できるわけが――」
「いやいや、できるんだな、これが」
男は、ジェイをちらりと見て、首飾りを持ち上げてみせた。
「これは特製の加護がついた首飾りでね。魔法から身を守ることができる。さらには、祈ることで身を隠すことができるんだ」
――魔法消去の加護を持つ首飾りだったのか!
エルスウェンはどきりとした。探索者であれば珍しいものではないかもしれない。わざわざ好んで身につける愚か者はいないにしてもだ。
だが、単なる狩人に過ぎない、という彼がなぜそんなものを持っているのか? 店で買う、知人から譲ってもらうなど、可能性はたくさんある。それでも、エルスウェンはいよいよこれは当たりを引いた――そんな気分になっていた。
男は、ぐるりと周囲を見回した。
「ここで狩りをしていたのさ。そうしたら――ぼくは眼が良くてね。君たちがやってくるのが見えた。だから、ちょいと脅かしてやろうと思って、隠れてたのさ。悪かったよ」
悪びれる素振りはないまま、男が言った。
「今日はわざわざ、特製の首飾りを持って狩りに出てきたんだな。そしてたまたま、ここを狩り場にしていた、と」
ラティアが目を細めて指摘をする。それを聞いて男は眉を上げると、くすくす笑い始めた。
「参ったな。ご明察だ。君たちは、ぼくに会いに来たんだろう?」
「はい」
エルスウェンが頷く。男も、頷き返してくれる。
「なんでかな。ぼくも君たちに会いたくなった。いきなり探索者なんかに誘われて……そんなことを言ってくるヤツなんて、今まで見なかったからかな。いや――」
独り言のように、男は続けた。
「君たち四人とも、優れた探索者に見える。でも、なんだか普通じゃない焦燥感に包まれていた……のになぜか、手には湧き水のボトルのいっぱい詰まった籠やら、アロエの葉のいっぱい詰まった籠を持っていて、ただ野原で遊んだ帰りにも見える……とても変な人たちだと思った」
そこで、男はまたエルスウェンを見てきた。
「でも結局、一番興味を持ったのは君だな。ほら、この辺りに、森人の賢者が隠れ住んでいるんだけど。結界まで張ってね。知ってるかい? その人がさっきの君と同じ魔法を使っているのを見たことがあるんだけどな」




