第39話 新たな仲間 #3
アロエを集めて、フラウムと一緒に鴨の落ちた場所へ駆けていくと、ジェイとラティアが揃って待ってくれていた。
「やった人は?」
エルスウェンが訊ねると、ジェイは手に持った鴨を、こちらへ投げてきた。
「いや、まだ現れていない」
受け取ると、まだ温かい。息の根は止まっている。
「そういえば、エルス、探知はできるか?」
ラティアに言われて、エルスウェンはそうかと思い直した。最初から、探知魔法を使っていればよかったのだ。
反省しつつ、鴨を確かめる。一撃で急所を射抜かれて、即死している。
背筋が粟立った。相当な腕前の狩人だろう。
それから、生命探知の魔法を使った。魔力を周囲へ飛ばす。この周りにいる、それらしき人を捜す。
たったひとつだけ、反応を見つけた。
「あっちだ――五十メートルの位置。身長百七十五くらい。弓を持ってる。たぶん、間違いない」
エルスウェンは南を示した。南は、自分たちのいた方向だった。ジェイの判断は、間違っていなかった。
つまり狩人は、エルスウェンたちよりも遙か後方から、鴨を射たことになる。
しばらく待っていると草原の向こうから、人影がのんびり歩いてくるのが見えた。
短く整えられた、さらりとした金色の髪。服装は狩人どころか、一般市民のようなシャツにパンツ姿だ。そして、矢筒を肩に掛けていて、弓を片手に携えている。ミスマッチな格好だった。
その人物は、エルスウェンたちから十メートル手前ほどで立ち止まった。
薄笑いを浮かべて、その人物は口を開く。
「あー……それはぼくの獲物で、晩ご飯になるんだけど、渡してもらえるかな。君たちはなに? 動物愛護団体かなにかじゃないよね? それとも、その鴨の飼い主だったとか?」
そんなことはあり得ないと分かっているけどね、と言いたげな、冗談めかした、皮肉っぽくもある言い草だった。
高くも、低くもない、中性的な声だ。顔も、男か女か分からないほどに細く、肌の色は白く、整っている――凄まじい美貌の持ち主だった。が、骨格から見て、男だろうとエルスウェンは思った。
特に目を惹いたのは、その瞳だった。紅玉のように赤い。今まで、そんな目の色をした人族は見たことがなかった。
エルスウェンは、一歩進み出た。
「僕は、エルスウェンと言います。探索者をしています」
それを聞いた男は、ひゅう、と軽薄に口笛を吹いた。
「探索者か。東の、あの迷宮に挑んでいる人のことだね。ご丁寧に名前もありがとう。ぼくの名前は……えーっと」
薄く笑ったまま、男は言葉に詰まって天を仰いだ。それから、肩をすくめる。
「名前はないんだ。名無しの狩人、とでも呼んでくれればいいよ」
丁寧な口調に、どこか浮世離れをした、得体の知れない空気感があった。
その様子に、エルスウェンは自分の母を思い出した。その感じに、どこかこの男は似ている。見た目は二十歳ほどにしか見えないのだが、もっと年嵩がある――それも想像を超えた年月を生きてきた人の、超然とした雰囲気がある。
ただ、見た目には森人ではない。耳が尖っていないし、目は赤い。一体この人はなんなのだろうかと見ていると、ジェイが言った。
「大した弓の腕だな?」
言われて、男は眉を上げて弓を示してきた。
「これかい? まぁ、狩りをして生きてるからね。一応ちゃんと王宮から狩りの許可は得ているし、獲物の数も守ってるし、今は禁猟期ではないし、ここも禁猟区ではないよ」
「魔物を殺すことはできるか?」
ぶっきらぼうな、ジェイの質問だった。それに男は、ぷっと吹き出す。
「物騒な質問だね。ぼくはただの狩人だから、そういうことはやらないよ」
「そうか」
ジェイは頷くと、あっさり引き下がった。男はエルスウェンを見ると、右手を出して鴨を寄越してくれ、と身振りした。
エルスウェンは、素直にそれを投げ渡す。
鴨を受け取った彼は、満足そうに頷いて一礼をしてきた。
「ありがとう。それじゃあ、ご機嫌よう。探索者さんたち」
「いいえ。あの」
手を挙げて立ち去ろうとした男の背中に、声をかける。
「なんだい?」
「……あの、探索者のパーティに、入る気はありませんか?」
「それは、ぼくに言ってるのかい」
半身だけこちらに向けると、男は、ははっと笑った。それから、手を振ってくる。
「遠慮しておくよ。ぼくはしがない狩人だ。危ないことには首を突っ込みたくない」
それきり、彼は草原の向こうへと、こちらを振り返ることもなく去っていった。




