表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅰ すべての始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/169

第39話 新たな仲間 #3

 アロエを集めて、フラウムと一緒に鴨の落ちた場所へ駆けていくと、ジェイとラティアが揃って待ってくれていた。


「やった人は?」


 エルスウェンが訊ねると、ジェイは手に持った鴨を、こちらへ投げてきた。


「いや、まだ現れていない」


 受け取ると、まだ温かい。息の根は止まっている。


「そういえば、エルス、探知はできるか?」


 ラティアに言われて、エルスウェンはそうかと思い直した。最初から、探知魔法を使っていればよかったのだ。


 反省しつつ、鴨を確かめる。一撃で急所を射抜かれて、即死している。


 背筋が粟立った。相当な腕前の狩人だろう。


 それから、生命探知の魔法を使った。魔力を周囲へ飛ばす。この周りにいる、それらしき人を捜す。


 たったひとつだけ、反応を見つけた。


「あっちだ――五十メートルの位置。身長百七十五くらい。弓を持ってる。たぶん、間違いない」


 エルスウェンは南を示した。南は、自分たちのいた方向だった。ジェイの判断は、間違っていなかった。


 つまり狩人は、エルスウェンたちよりも遙か後方から、鴨を射たことになる。


 しばらく待っていると草原の向こうから、人影がのんびり歩いてくるのが見えた。


 短く整えられた、さらりとした金色の髪。服装は狩人どころか、一般市民のようなシャツにパンツ姿だ。そして、矢筒を肩に掛けていて、弓を片手に携えている。ミスマッチな格好だった。


 その人物は、エルスウェンたちから十メートル手前ほどで立ち止まった。


 薄笑いを浮かべて、その人物は口を開く。


「あー……それはぼくの獲物で、晩ご飯になるんだけど、渡してもらえるかな。君たちはなに? 動物愛護団体かなにかじゃないよね? それとも、その鴨の飼い主だったとか?」


 そんなことはあり得ないと分かっているけどね、と言いたげな、冗談めかした、皮肉っぽくもある言い草だった。


 高くも、低くもない、中性的な声だ。顔も、男か女か分からないほどに細く、肌の色は白く、整っている――凄まじい美貌の持ち主だった。が、骨格から見て、男だろうとエルスウェンは思った。


 特に目を惹いたのは、その瞳だった。紅玉のように赤い。今まで、そんな目の色をした人族は見たことがなかった。


 エルスウェンは、一歩進み出た。


「僕は、エルスウェンと言います。探索者をしています」


 それを聞いた男は、ひゅう、と軽薄に口笛を吹いた。


「探索者か。東の、あの迷宮に挑んでいる人のことだね。ご丁寧に名前もありがとう。ぼくの名前は……えーっと」


 薄く笑ったまま、男は言葉に詰まって天を仰いだ。それから、肩をすくめる。


「名前はないんだ。名無しの狩人、とでも呼んでくれればいいよ」


 丁寧な口調に、どこか浮世離れをした、得体の知れない空気感があった。


 その様子に、エルスウェンは自分の母を思い出した。その感じに、どこかこの男は似ている。見た目は二十歳ほどにしか見えないのだが、もっと年嵩がある――それも想像を超えた年月を生きてきた人の、超然とした雰囲気がある。


 ただ、見た目には森人ではない。耳が尖っていないし、目は赤い。一体この人はなんなのだろうかと見ていると、ジェイが言った。


「大した弓の腕だな?」


 言われて、男は眉を上げて弓を示してきた。


「これかい? まぁ、狩りをして生きてるからね。一応ちゃんと王宮から狩りの許可は得ているし、獲物の数も守ってるし、今は禁猟期ではないし、ここも禁猟区ではないよ」


「魔物を殺すことはできるか?」


 ぶっきらぼうな、ジェイの質問だった。それに男は、ぷっと吹き出す。


「物騒な質問だね。ぼくはただの狩人だから、そういうことはやらないよ」


「そうか」


 ジェイは頷くと、あっさり引き下がった。男はエルスウェンを見ると、右手を出して鴨を寄越してくれ、と身振りした。


 エルスウェンは、素直にそれを投げ渡す。


 鴨を受け取った彼は、満足そうに頷いて一礼をしてきた。


「ありがとう。それじゃあ、ご機嫌よう。探索者さんたち」


「いいえ。あの」


 手を挙げて立ち去ろうとした男の背中に、声をかける。


「なんだい?」


「……あの、探索者のパーティに、入る気はありませんか?」


「それは、ぼくに言ってるのかい」


 半身だけこちらに向けると、男は、ははっと笑った。それから、手を振ってくる。


「遠慮しておくよ。ぼくはしがない狩人だ。危ないことには首を突っ込みたくない」


 それきり、彼は草原の向こうへと、こちらを振り返ることもなく去っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ