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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅰ すべての始まり

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第38話 新たな仲間 #2

「弓士?」


 こちらの質問に、彼女は怪訝な顔をする。


「うん。その巻物に書いてあったんだ。弓矢の攻撃で、魔物の攻撃を妨害してその隙に攻撃をしたり、魔法を使えなくするっていう連携が。あの剣士には、魔法が効かないだろう? 魔法以外の、遠間からの攻撃も、考慮したほうがいいと思って」


「だが……あの剣士に対して、弓矢でどうこうできるとは思えないがな」


 そう前置きしてから、ラティアは教えてくれた。


「ひとり、変わり者の弓士がいたよ。バドルという、地人族の男だ。四十を過ぎた、元狩人で鍛冶もやる。ベルハルトのパーティで戦っていた。知らないか?」


「ごめん、聞いたことないな。でも、ベルハルトのパーティにいたなら、相当に強い探索者なんだろうね」


 ベルハルトというのは、マイルズと同じ年頃で、得意武器も同じ大剣という、名の知れた探索者だ。パーティのリーダーをやっていて、身長は百七十ほどと探索者の前衛としては小柄な体躯ながら、軽々と大剣を振り回すほどの膂力りょりょくを持っている。彼のパーティは、ラティア、ロイドのパーティに次ぐか、あるいはそれ以上の期待を持たれるほど強くもあった。


 性格は、竹を割ったようなさっぱりとした好漢で、エルスウェンも何度か会話をしたことがあるが、嫌味なところの全くない、朗らか、豪快、快活を地で行くような人だった。


 しかし、パーティの人員が揃わず、最近はあまり迷宮へは挑めていないと聞いていた。加えて、ラティアがバドルのことを過去形で話していることから、薄々想像はついてしまったが。


 ラティアは頷いてから、それについて教えてくれた。


「バドルは亡くなったんだ。そういえば……それはエルスが私のパーティに加入する前だったな。では、知らなくて当然か」


 エルスウェンは、訓練所を卒業してすぐ、ラティアに勧誘された。探索者としての道を歩み始める前にそのバドルが亡くなっていたのなら、知る術はほとんどない。


 ラティアは続けた。


「大層、優れた弓士であったらしい。鍛冶をやっていたから、自身でしか引けないという、とんでもない強弓を作ってな。見たことがあるが、鋼を何枚も貼り合わせた、見た目にも凄まじい代物だった」


「あー、私も見せてもらったことあるよ。矢がなくなったときは、コイツでぶん殴れば豚鬼くらいなら一撃よ、って豪快に笑ってたな、あのおっちゃん」


 しんみりした調子で、フラウムも応じてくる。


 ラティアはそれに頷き返すと、エルスウェンに視線を戻してきた。


「皮肉な話だが、小鬼の毒矢にやられたんだ。第……五階層に挑んでいたときだったかな。ベルハルトたちは、大層落ち込んでな。今まで、彼に代わる前衛を見つけられないせいで、迷宮から遠ざかっている。彼が生きていれば、今回の討伐隊候補だったろうにな」


「そうなんだ。……弓士なのに、前衛だったの?」


「ああ。矢を外すことはできないから、離れて撃つのではなくて。弓で殴り倒し、あるいはベルハルトが動けなくした敵に射掛けてとどめを刺す、というスタイルで戦っていたらしいな。その弓矢の威力は絶大で、迷宮虎の口から入った矢が尻から貫通し、結局矢を一本損した、という話をしていたな」


「そいつは、すごいな」


 ジェイも頷き、感心していた。そのまま、彼は質問する。


「その男以外に、弓士はいないのか?」


「心当たりはないな。言った通り、変わり者だったんだ。そしてその戦法を許容して、ある程度好きにやらせていたベルハルトがリーダーだったから成立していたのであって、やはり迷宮には、弓は向いていないからな」


 少なくとも、バドルが生きていようと、連携などは期待できなさそうではあった。


 やはり、弓士を捜すというのは無理か、と諦めて、野原を進んでいく。


 しばらく歩いていると、フラウムが飛び退った。


「うわっ!?」


 悲鳴と同時に、身の竦むような大きな鳴き声がする――鴨の鳴き声だ。同時に、ばさばさとけたたましい羽音と共に、数羽の鴨が草むらから飛び立った。


 フラウムは驚いて尻もちをつき、アロエの入った籠を地面にひっくり返していた。


「ムキー! ちきしょう、タレつけて火炎魔法で照り焼きにしてやろうか!」


「無理だよ」


 エルスウェンはフラウムを助け起こしながら、空を見上げて言った。


 鴨は、地上五十メートル以上の高さを飛ぶ。そして、どんどん遠ざかっていく。詠唱が必要な魔法で狙いをつけられるようなものではない。


 こういうものを狙うときは、魔法よりも弓矢のほうが優れているな、とエルスウェンは逃げていく鴨を見て思った。すでに空高いところを、三羽が列なって逃げていく。草陰で寛いでいたところを、邪魔してしまったか。


 ただ、弓矢で狙うにしても。空を飛ぶ鳥を撃つには凄まじい腕が必要だろう。それも間違いない。


 そう思っていると、きゅん、となにかを弾いたような高い音が、遠くから聞こえた気がした。


 そして、すでに豆粒ほどの大きさになろうとしていた鴨たちの一羽が、ぐえっと鳴いて、羽根を散らせる。それは真っ直ぐに地面に墜落していった。


 エルスウェンは、ジェイ、ラティアと顔を見合わせた。


「今の音は?」


「弦鳴りだ。弓だな」


 ジェイが断言する。彼は音のした方向が分かるのか、南の方を見やる。


 あの鴨は……誰かに射掛けられたのか――エルスウェンは思わず、呟いていた。


 本能的な勘が、訴えかけてくるような気がした。射た狩人は、凄腕であると。


「ジェイ、射た人を、見てみたいんだけど」


「音は南からだが。離れていそうだな」


「獲物を射たんだから、取りに来るんじゃないか? 私たちで、先に鴨を確保してしまえば、必ず会えるだろう」


 ラティアが言う。エルスウェンは、ジェイ、ラティアと頷き合った。


 三人で、鴨が落ちた方向へ駆け出そうとする。が――


「ちょ、ちょっと待ってよー! 一緒にアロエ拾ってよー!」


 フラウムが必死で、ひっくり返した籠にアロエを拾い集めていた。


 エルスウェンは、すぐに引き返して、アロエを拾う。


「僕が手伝うから。ラティア、ジェイは……」


「分かってる。やったヤツを抑えておこう」


 そう言って、ふたりは駆けていった。



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