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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅰ すべての始まり

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第35話 糸口を探し出せ #3

 交叉攻撃の次に記されているのは、後列と前列による連係攻撃だった。


「……飛び道具か……」


 記述内容を見て、エルスウェンは思わず呟いた。内容が分からずに怪訝そうなジェイを見て、慌てて読み上げる。


「牽制攻撃――パーティ後衛を担当する弓士が、攻撃動作に入る魔物や、魔法の詠唱をする魔物を妨害する。前衛はそれと連携して動くことで、矢を防ごうとする相手に不可避の攻撃を浴びせる」


 あまりにも単純な事が書かれている。が、真理というのは、いつでも単純である。


「なるほど……。弓か。おかしなことだが、考えもしなかったな。探索者たちの中に、弓矢を使う者を見たことがないからか」


 感じ入ったように言うジェイに、エルスウェンは説明した。


「弓矢は、基本的には狩りをするために使う道具で、魔物には通用しないと考えられているんだよね。相手を殺傷するには、剣のほうが速い。距離を置いて攻撃したいなら、魔法のほうが便利だしね。弓矢は一度に複数を攻撃できないし」


 探索者が弓矢を武器に選ばない理由は、複数ある。


 弓には矢が必要であることが、まずひとつ。矢は有限であり、破損すれば使えなくなる。魔物を殺傷するために強い弓を使用すれば、矢が破損する確率はさらに高まる。外して迷宮の壁、床に当たれば、まず使いものにならなくなってしまう。


 探索者は下手をすれば一週間以上、迷宮に潜ることもある。その間、矢を補給することはできない。犬鬼や、小鬼が所持していることはあるが、基本的に矢も弓士に合わせたものを使う必要がある。たまたま拾った矢が使いものになる確率は、極めて低いのだ。


 次には、射程の問題がある。弓矢は、訓練した弓士で三十メートルから、せいぜい五十メートルまでを有効射程と考えていいらしい。角度をつけての射撃――曲射をすれば、もっと長い距離を狙うことができるが、精度は期待できなくなるだろう。


 ただ、迷宮内での接敵は、基本的に十メートル以内だ。弓矢の射程を十全に活かせていないのは、明白である。


 迷宮内では、照明の魔法を使って視界を確保することになる。その照射範囲は可変だが、あまり大きくすることはない。あまり目立っては、魔物にこちらの存在を報せることになり、余計な奇襲を招きかねないからだ。


 特に踏破済みである第四階層付近までは照射範囲は狭くなりがちで、第五階層以降の未踏破階層に足を踏み入れて初めて、奇襲のリスクと未踏破階層を小さい照明で進むリスクとを天秤にかけることとなる。


 となれば、弓矢が射程を活かせるのは、魔法の照明を大きく設定した場合の第五階層以降だということになる。が、その場合にも、運良く敵を先に発見できなければならず、それを満たしたとしても、敵が複数であれば、弓矢で攻撃できるのはたった一体のみだ。その場合、魔法使いであれば魔法で一網打尽にできる。


 最後に、弓矢は狙うのが難しいにもかかわらず、常に必中を期待される武器だ、ということも問題だった。


 例を挙げるなら、魔物にはある程度の知恵を持ち、防具に身を包む小鬼や犬鬼、豚鬼などがいる。他にも、素早い身のこなしの迷宮虎や殺人兎、全身を硬い鱗で覆った大蜥蜴、蜥蜴人という魔物もいる。そういった魔物を倒すには、正確に急所を狙うか、魔法で一気に薙ぎ払うかしなければならない。


 弓矢は、いわば点の攻撃だ。そして、急所も点である。点で、点を狙わねばならない。一射必中という神業を持つ弓士でもない限り――もし外せば矢は折れてしまい、さらに相手に反撃の機会を与えることになってしまう。弓矢は、素早い連続攻撃のできない武器でもあるからだ。


 エルスウェンの見解に、ジェイは頷いていた。


「地上の戦闘や戦争であれば、役にも立つんだろうがな。迷宮内で魔物相手に役立てるというのは、かなりの難題だろう」


「うん。でも……牽制に使うというのは、盲点だったかも。ジェイみたいな人が戦いつつ、後方から掩護射撃をしたりとか」


「相当の腕前でなければならないぞ。いくら俺でも、対手の攻撃と、背後からの仲間の矢の狙いを常に計算して戦うというのは疲れるな」


「だよね。ところでジェイは、弓矢は扱えない?」


「扱える――とはとても言えんな。せいぜい、狩りに使える程度だ。とてもあの剣士に通用するほどではない。やることが牽制なら、石でも拾って投げた方がマシだな」


 言って、ジェイはなにかを思い出したようだった。


「お前はどうなんだ? 森人は視力に優れ、弓を得意とすると聞いたが」


「ああ、うん。僕は、武器の類はからっきしダメなんだ。それにそもそも、僕は血を引いているだけであって、森人じゃないよ。視力も、普通の人族と同じ程度」


「そうか。そうだったな。すまん」


「それに、その話も今は違ってるみたい。森人の人たちは魔法の力に頼ることのほうが多いんだって。伝統的に弓矢を使うっていうのは正しいみたいだけど、魔法の力で怠惰に生きることを覚えてからは、弓矢を使わない、使えない森人のほうが多いだろうって、母さんが言ってたかな」


 そちらをちらりと見ると、女性陣は母の持ち出した美容アイテムを前にして盛り上がっている。


 それは無視して、ジェイに顔を戻した。


 彼は思案顔だったが、エルスウェンの視線に気づくと、口を開く。


「なら、森人の弓士を捜してみる、という手が頭をよぎったんだが、ボツだな。そもそも森人であれば、お前の言う通り、魔法を使ってもらったほうがいい」


「うん。でもあの剣士には、魔法が効かないから……」


「選択肢のひとつとして、考えてはおくべきか。まぁ、直接の物理的な攻撃も、一切が通用していないわけだが」


 皮肉っぽくジェイが言う。それを聞いて、ふと不思議に思ったことがあった。



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