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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅰ すべての始まり

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第33話 糸口を探し出せ #1

 王宮への召喚の翌日。話していた通りの二手に分かれたエルスウェンは、ラティアたちを連れて再び生家へ戻っていた。


 謁見の内容の説明と、数週間ぶりにここへ来たラティアが母に挨拶を済ませると、古書との地獄のような戦いが再び始まる。


「王宮を挙げての一大事だって認識してるならさぁ、あの賢者集会のアミディエルさんとかさぁ、あとは王宮の学者連中とかにやらせるべきじゃないの? 一大事になにしてんのよ、あいつらってー!」


 開始五分で文句を言い始めるフラウムだが、全員がそれを聞き流す。


 今日はジェイも古書との戦いに参加してくれるようで、彼は床にあぐらをかいて巻物を眺めていた。


 エルスウェンはまだ自分が目を通したことのない書物を狙って、手に取ることにしている。それらは今まで、大して役に立つ情報はなかった。フラウムが見つけていたような情報――『風呂の水の再利用』『伸びる孫の手の作り方』『ひとり暮らしをするなら知っておいたほうがいい特選ライフハック』など、どうでもいいものしか出てこない。


 現在手にしている本にも、大した情報はなさそうだな、となんとなく見切りがつく。が、一応最後までは目を通さねばならない。


 うんざりしながら、ページを手繰る。


 すると。


「む……! これは!」


 ラティアが、唸りを上げた。彼女は森人の言葉で書かれた本を解読している。


 なにかを見つけたのかと思って、エルスウェンは本を横から覗いた。


 ページの見出しは『寝る前に必ずやっておきたい、疲れ肌をいたわるレスキュー・スキンケア』……。


 思わず、ラティアの目を見る。彼女は慌てたように手を振った。


「ふっ、ふざけているわけではないぞ。つい、声が出ただけだ」


 額に汗まで浮かべて必死に弁明しようとしている彼女に、エルスウェンの背後から声が飛んだ。


「あら。それ。私が若い頃に高いお金を出して買った本ね。ラティアちゃん、お目が高いわ。いいこと書いてあるのよ、それ。何百年経っても未だに通用するんだから」


「そうなんですか?」


「ええ。ほら、特に三十八ページに作り方が書いてある、アロエの保湿クリーム。これなんて、すごーくいいのよ。私もね、何百種類と試してきたけれど、結局これに戻ってきちゃうのよね。あとで分けてあげましょうか」


「是非、お願いします」


「私も! 私もほしい!」


 フラウムまで加わり、開始十分で脱線――とエルスウェンは胸中で呟いた。この調子で、有益な情報は見つかるのだろうか。早くも暗雲が立ちこめてきた。


 女王からの討伐任務に、期日は特にない。が、何日かけてもいいわけではない。


 懸念のひとつは、迷宮に入れない探索者たちは収入が激減してしまうということだ。迷宮から手に入る財宝の類だけでなく、王宮への魔物の情報やマッピングの報告によって得られる報奨金までもがなくなるというのは致命的である。


 一応、訓練所での講師や、探索者として鍛えた身体を生かした肉体労働などで口を糊することはできるが、それは彼らの本意ではないだろう。 


 もうひとつは、迷宮に結界で蓋をしてしまうと、迷宮内に瘴気がこもり、中の魔物たちが凶暴になっていく、ということだ。普段から結界で迷宮に蓋をしないのは、そういう理由がある。もし黒燿の剣士までその影響を受けるとしたら、決して長引かせられない。


 したがって、期日は設けられていなくとも、最低一ヶ月以内には決着をつけなければこちらの負け、くらいに厳しく考えておくべきだ。


 黒燿の剣士討伐隊の双肩には、探索者全体の命運がかかっている――


 はずなのだが……。


「あの、お母さま。化粧水は、どのようなものをお使いですか」


「化粧水? それもこれに載っているものを作って使っているわよ。八十一ページね。ここの近くに、湧き水があってね、そこのお水と……」


「ええー、私ヘチマ水しか使ってないのに! これすごいよさそう!」


 女性陣はさらに盛り上がっている。エルスウェンは、横目でラティアを見た。


 その美しい横顔に、思いを馳せる――


 彼女は確か、今年で二十四歳だ。すらりと長い手足に、美しく輝く銀髪、白い肌。長い睫毛。身長は百七十五センチくらいあり、エルスウェンよりも高い。


 スキンケアなどを気にしないといけないようには見えないほどの美人なのに。どこかで苦労をしているんだろうか。


 彼女は、パーティのリーダーとしてはかなり若い。十八歳で女王守護隊として王宮に勤めた経歴と、冷静な判断力。そして、パーティの仲をバランスよく取り持ち、忌憚ない意見でもって場を纏める力はマイルズも文句なしに認めているし、フラウムも良き姉貴分として懐いてプライベートでも頼りにしているほどだ。


 その分、気苦労も多いのかもしれない。そういえば、以前探索のない日にたまたま立ち寄った王都の薬屋で、高い化粧水を前に黙考するラティアを見たことがあった。


 すさまじい剣幕と集中力でこちらには気づかなかったことと、とても話しかけられる雰囲気ではなかったためにそっとしておいたが。


 どのパーティからも一目置かれる実力とその美貌は、余人にはとても分からない膨大な努力によって支えられているのだろう。そう思うことにした。そもそも苦労をかけている代表は自分なのだから、ラティアの肌が疲れないほどには、もっと上手くやれないといけない。今度、なにか美容にいい食べ物かなにかを差し入れでもしてみようか……。


 と、考えていると声をかけられた。


「なあ、エルス。これをどう思う?」


 ひとまず女性陣から目を離して、ジェイへ向き直った。


 ジェイはひとつの巻物を広げた姿で、辞書も持って眉間に皺を寄せている。


 エルスウェンは彼のほうへと床を這っていくと、巻物を覗き込んだ。



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