第31話 謁見 #3
「そして、ロイド、ファルク、キャリス、ジェイ。ラティア、マイルズ、フラウム、エルスウェン。そなたらを黒い剣士――これを黒燿の剣士と呼ぶことにするが――これの討伐隊に命ずる」
「……はっ。慎んで、承ります」
なんとか言葉を呑み込んで、という風情で、ラティアが答えている。
その様子を見て、女王は小さく笑った。
「不満か、ラティア」
「いえ、そのようなことは……」
「よい、分かっておる。黒燿の剣士が尋常ならざるものであることは、わらわも承知だ。探索者は我が国の財産。決して道具ではない。だからこそ、最も討伐の可能性のあるパーティに賭けたいのだ。分かってくれ」
女王は威厳を持って、言葉を紡いでいく。
「当座の支援は惜しまぬ。支度金に、万が一蘇生の必要があれば、その代金も王宮で負担をしよう。他に要求があれば、ドゥエルメかアミディエルに伝えるがよい。王宮への出入りの許可も与えておく。そして黒燿の剣士討伐を達成すれば、相応の報奨金をそなたらに与えよう」
破格の待遇だった。そこまで言われては、断るほうが無礼である。
次に、女王はエルスウェンをまた見てきた。
「エルスウェン。王都を襲撃した黒燿の剣士を追い払ったのは、そなたの母君であったそうだな。礼を伝えておいてくれ」
「はあ。いや、全然気にしていないと思うんですが……」
「そうか。ときに、訊ねるが。そなたの母君を、討伐隊に駆り出すことは可能か?」
女王は扇子で口元を隠しつつ、こちらを見ている。
それには否定の言葉を返すしかない。
「無理ですね。あの後、なにか分かったみたいなんですが。そっちの世の中のことはそっちで解決しなさい、っていう状態に戻ってしまいまして。本当にどうしようもなくなった時は、助けてくれるとは思いますけど……」
「そなたでも説得は不可能か?」
「絶対に無理です。ああなると、テコでも動きませんから」
エルスウェンが首を振ると、女王はやれやれと嘆息してみせた。元より期待はしていなかったのだろう、仕方がないなと小さく呟くのが聞こえた。
「難事の度に声をかけていては、かの賢者も気が休まらぬわな。よろしい、我らが俗世のことは、我らで決着をつけよう」
次に女王は、アミディエルに声をかけた。彼はそれに頷くと、手になにやら複数の平べったい小箱を持って、こちらへ歩み寄ってくる。
アミディエルは、ラティアの前に立ち止まると、小箱を開けて、中身を見せた。
入っていたのは、徽章のようだった。
彼は説明を始める。
「これを討伐隊には身につけていただきます。この徽章には、追跡の魔法が込められています。万が一のことがあった場合、居場所をこちらで捜し、助け出すこともできます」
「探索者の指輪にも、居場所が分かる魔法が込められてるんだろ?」
マイルズの言う通り、探索者の証である指輪には、追跡の加護が込められている。迷宮内で死した場合に、『慈悲の手』が死体の回収をするためだ。
アミディエルは、それに答える。
「これには、もっと強力なものが込めてあるのです。地図と印を用いて、パーティの位置を即時的に追跡することが可能になります」
「ハッ。ますます、飼い犬の首輪じみてきたな」
たまらず口をついた、という具合に、マイルズが続けて言う。彼はこういう場ではなにも余計なことを言わない質だが、思うところでもあったのだろうか。
それに、アミディエルはなんとも言えない顔をした。
「不快であることは承知しております。が、それを考慮してはいられないほどの危険な任務だとも、承知しています」
それを聞いてマイルズは苦笑するだけに留め、余計なことは言わなかった。
アミディエルは整列している順に徽章の入った箱を渡していく。エルスウェンもそれを受け取る。
「ところで、女王陛下サマ」
マイルズが小箱を手に、声を上げた。
「なんだ、マイルズよ」
「かの黒燿の剣士は、迷宮から地上へ出てくるってわけですが。その辺の対策ってのは、どうお考えで?」
「無論、考えてある。そのアミディエルが、すぐに迷宮へ強靱な結界を張る手筈になっておるよ。その徽章は、その結界を通る際にも必要になるそうだ」
「そういうことです」
アミディエルは女王の後を継いで答えた。
「迷宮の後は、王都全体にも結界を張ります。これは、迷宮入口にかけるものよりは弱く組みますので、出入りに徽章は要りませんが。迷宮の出入りには必要になるため、なくさないように注意してください」
「了解いたしました、賢者どの。あとで名前を書いておくであります」
慇懃に頷くマイルズ。それに玉座から苦笑しつつ、女王は言った。
「他に質問のあるものは?」
それに、ロイドが挙手をする。
「あの……討伐っていうのは、本当に俺たちだけで?」
「パーティの増員などはそなたらの裁量に任せる。追加の徽章が必要になれば、取りに来るがよい。加えて、高札には討伐志願のパーティを受けつける旨と、報奨金についても記しておく。ゆえに、討伐パーティがそなたらだけとはなるまい」
女王は扇子でぱしんと手を打った。
「もちろん、力不足のパーティに討伐許可は出さぬぞ。ドゥエルメがその審査を請け負う。迷宮が報奨目当ての探索者で溢れる心配は要らぬよ」
反論の余地はなかった。ロイドも納得したのか、頭を下げて質問を打ち切る。
ドゥエルメはもう一度場を見回した後、言った。
「では、これで謁見は終わりだ。下がってよい。朗報を期待している」
女王に全員で揃って、一礼を捧げた。
そして、近衛兵たちの導きで、玉座の間から退出する。
王宮から出て、眩い太陽の光を浴びてからエルスウェンは、ようやく緊張から解き放たれて、大きくため息をついた。




