第30話 謁見 #2
「はっ――はい」
「そなたは偉大なる森人の賢者、シェルフェンの血を受け継ぐものであるらしいな」
「はい。一応、そうみたいです」
つい――本当につい、悪意もなにもなく、そんな受け答えをしてしまった。左右の近衛兵が、ぎろりと睨んでくる、その視線が突き刺さる。
ただ、女王とアミディエル、ドゥエルメは微笑していた。女王は睨んでいる左右の近衛兵――女王守護隊の兵士に対して手を振る。
「よい。そなたは無限の魔力を持ち、当世においてはすでに失伝している魔法を使いこなせると聞いている。なんでも、その技のひとつは、魔力で周囲を察知し、目を瞑ったままで第一階層から第五階層まで踏破できるほどだとか」
「あー……ええと。どうでしょうか……がんばれば、多分できるとは思いますが」
他人事のように、そのエルスウェンとかいうヤツは相当に優秀な魔法使いのようだな、と思う。噂の尾鰭というのは怖ろしい。
女王はこちらの受け答えには全く頓着せず、真っ直ぐにこちらを見定めてくる。
「ふむ。そなたらのパーティが、迷宮探索において目覚ましい活躍を続けているのは、その魔法によるところが大きいとも聞く」
「いいえ。それは断じて。ラティア、マイルズ、フラウムあっての僕です。僕にできることはパーティの補助であり、自分にできる仕事のせいぜいが、余計な接敵の機会を減らすくらいのことで……」
言いながら、近衛兵たちの怒りが昂ぶってゆくのを感じた。しまった、女王陛下に真っ向から反論をしてどうする――なにか言われたら適当に頷いておけという、謁見におけるルールをラティアから学んでいたのに、全て自分で台無しにしている。
が、女王はこちらの言い様を気にも留めていないようで、手に持っていた扇子でエルスウェンを指した。
「そこだ」
「どこです?」
「そなたは、索敵もできるのであろう。なぜ、黒い剣士はそなたらにそれほどまでの甚大な被害をもたらしたのだ?」
「あの黒い剣士には、推測するに、魔法消去の加護がかけられています。それによって、僕の魔法による索敵が、無効化されてしまっていたんです。フラウム、キャリスの攻撃魔法も無効化されて、撤退するほかありませんでした」
「なるほどな」
女王は、また何度か頷く。それから、教えてくれた。
「ザングの葬儀の後、何個かのパーティが迷宮へ潜っている。そしてそのうちのふたつがあの黒い剣士に迷宮内で遭遇して、壊滅した」
それは知らない情報だった。他にも知らない人はいたのか、集められた何人かが気配を変えるのが分かった。
「そこのドゥエルメ率いる『慈悲の手』が死体を回収し、蘇生はさせたがな。ドゥエルメも深手を負った。幸いにも回収に成功したパーティ共々、今は回復しておるが」
女王の言葉に、エルスウェンは衝撃を受けていた。
ドゥエルメは、王都でも最強の剣士と名高い男だった。浅黒い肌が特徴で、身長は百八十センチほど。その年齢は四十をすでに越しているが、マイルズをして『なかなか衰えねえ、食えないオッサン』呼ばわりという、凄腕の達人だ。
ドゥエルメまでが敵わなかったとなれば、単騎の武力であの黒い剣士を上回るものはいないだろう。
女王は、ひとつ間を置いて、口を開いた。
「その黒い剣士を、王宮は可及的速やかに排除すべき、迷宮探索の障害であると認定した。本日より、迷宮には探索制限をかける。他の探索者たちには、のちに高札を酒場の近くに立て、周知させよう」
それは、事前の予測通りの対応ではあった。さらにふたつのパーティが被害にあっているとなれば、当然の判断だろう。
だが、なぜ自分たちがここに呼ばれて、一番にその宣言を知らされているのか。
エルスウェンが不可思議に思っていると、女王はその旨を告げた。




