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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅰ すべての始まり

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第29話 謁見 #1

 エルスウェンを含むロイド、ラティアのパーティ総勢八名は、王宮は玉座の間に召喚されていた。


 王都を黒い剣士が襲撃した、という事件から、四日が経っていた。


 これまでのいきさつは、事件の翌日に宿屋『竜の夢』にいたラティアの元に召喚状が届いたそうだ。


 あの事件を、ロイドやラティアたちは、直接は見ていなかった。


 ロイドとキャリスはまだ宿で静養中であり、ラティアも宿で寛いでいたらしい。


 ファルクにマイルズは、街の外にある訓練所で鍛練をしていたという。


 誰もその場に居合わせなかったことに、エルスウェンは胸を撫で下ろした。ついでに、母の魔法を見られずに済んだことも。


 事件から二日が経った後で、エルスウェンたちは宿屋『竜の夢』のラティアを訪ねた。そこで召喚状の話を知らされて――


 そんなわけで今、エルスウェンは、ラティアから借りた金で借りた礼服姿で、真紅の絨毯の上に片膝をついていた。


「よくぞ参った、迷宮の探索者たちよ。苦しゅうない、面を上げよ」


 だだっ広い玉座の間に、よく通る女性の声が――メリディス王国を統べるメリディス王家、その女王であるマルガレータの声が響き渡る。


 聞き届けて、ようやくエルスウェンは顔を上げた。


 玉座からはマルガレータ女王が、余裕のある表情でこちらを眺めているのが見える。年齢はまだ四十を少し過ぎたばかりという、蠱惑的な魅力を纏った美女である。その美貌と合わせて、率直かつ実直な性格から、王宮内からも市内からも人気が高いと聞く。エルスウェンも、特に悪い印象を持っていない。とてもすごい人、くらいのイメージというだけだが。


 次に目に入るのは、玉座の背後に飾られた紋章入りのタペストリーに、足が沈むのではと思うほどに柔らかい真紅の絨毯、そしてその絨毯の脇に控える左右五人ずつの、女王守護隊と呼ばれる近衛兵たち。


 それらを順に見やってから、玉座の脇に控える人物に目が留まった。


 ひとりは、王国宰相であり、さらには賢者集会の長でもある、アミディエル。


 もうひとりは、王宮直属の死体回収部隊である『慈悲の手』隊長であり、女王守護隊の隊長でもあるドゥエルメ。


 それぞれが、玉座の左右にじっと控えている。というのは、よくある謁見の光景である。エルスウェンも探索者となったばかりの頃にあった謁見で、彼らを見ている。


 だが、今回はアミディエルの脇に、見たことのない少女がひとり、控えていた。


 豪奢なドレスを身に纏い、綺麗に纏められた髪を宝冠で飾っている。その身なりを見て、あれがシャルロッテ王女ではないかと思い当たった。


 聞きしに勝る美貌に、しばし目が釘付けになる。マルガレータ女王の一粒種であるシャルロッテ王女は天性の美貌を持ち、薔薇や宝石がため息をこぼして嫉妬をするほどだ――と。そういった噂は、『サブリナの台所』に入り浸るわけではないエルスウェンの耳にも届いているほどだった。


 年の頃は、エルスウェンとそう変わらないように見える。身長は、フラウムとそう変わらない。百五十と半ばほどだろう。


 だが、なぜ彼女が、とエルスウェンは訝った。


 その美貌が噂されはしても、そのお姿を拝見したという輩は市井にも、探索者にも、誰ひとりとしていなかった。それがなぜ、この場にいるのだろう?


 そういえば、とエルスウェンは思い出す。


 美貌の王女という噂は、実はとてつもない醜女なのではとか、新たな噂を呼んだりもしていた。エルスウェンにとってはどうでもいいことではあった。王女となればそれだけ大事に育てられるんだな、と感心はしたが。


「ロイドとそのパーティ以下三名。ラティアと、そのパーティ以下三名。女王陛下の召喚に応えて、参上仕りました」


 と、ラティアが胸に手を当てて、定型的な口上を述べる。


 それに女王はゆったりとした仕草で頷くと、口を開いた。


「ご苦労。だが、堅苦しい口上を述べる時間も惜しい。楽にして構わぬぞ。して、単刀直入に聞こう。そなたらは、先日にこの都を襲撃したあの黒い剣士、あれに迷宮で出会っているそうだな?」


「はい」


 短く、ラティアが応じる。こういうときの受け答えは、この王宮で近衛兵の経験も持っているラティアに全て任せるのが、エルスウェンたちのルールだった。


「その折に、ザングが命を落としたと。間違いないか」


「はい。間違いございません」


「素晴らしい探索者であった。いや、探索者であるだけでなく、腕のいい鍛冶屋でもあったな。ザングは、よく頑張ってくれたと思う。そして、エルスウェン」


 いきなり女王に名前で呼ばれて、エルスウェンはどきりとした。



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