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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅰ すべての始まり

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第25話 王都襲撃 #1

 生家に篭もり、家中にある書物、巻物をひっくり返して黒い剣士への打開策を探し始めて、二日が経っていた。


 最初は魔法消去に対抗できる魔法や、結界、加護などの記述を探していた。一日かけて探しまわったが、多すぎる本の中からはなんの手がかりも見つからない。


 次に、手がかりになりそうな書物をしらみつぶしに探して回ったが、なにも見つかっていない。


 それぞれに一日ずつ使って、二日というわけだった。


 ジェイやフラウムに、必ず弱点はあるはずだと啖呵を切っておいてのこの有様に、エルスウェン自身、非常にバツが悪い思いだった。


 そして、三日目の昼、分厚い本を捲っていたフラウムが、ぷつんと切れた。


「うわー!」


 突然叫ぶと、彼女は古書、古語の辞書をそれぞれ持った両手をばたばた振る。


「頭おかしくなっちゃうよ! わけの分かんない古語とか森人の言葉とかでしか書かれてないし! こんな意味不明な記号の羅列なんて眺めてたら気が狂っちゃうよー!」


「どうどう。でも今は、地道な作業に勤しむときだと思うから」


 エルスウェンは言うのだが、フラウムは納得しない。


「無理だって! こんな多くの本から目当ての情報を探すなんて!」


 床を示す彼女に従って、見回す。エルスウェンの身長ほどに積みあげられた本の塔が、大広間のそこここにできていた。他には、巻物の詰まった箱がまばらに置かれている。


 これらの本は全て、家の中にあったものだ。が、蔵書の一割にも満たないだろう。


 この母の家は三階建ての屋敷で、書庫となっている部屋がいくつもある。それらを全て読破するというのは最初から不可能なのだ。幼少期から家中の本を手当たり次第に読んでいるエルスウェンでも、まだ二割にすら到達していないはずだ。


 肝心の母本人も、どこにどの本があるのかを把握していない。


 だから闇雲に、無鉄砲に、無作為に、漠然と、どこかに手がかりがあることだけを信じて、本を探すしかなかった。そんなやり方で見つかるわけがないのは当然だろう。藁山の中から針を探すようなものだ。


 ただ、本当に見込みのない場合は、母が口出しをしてくれることは分かっている。今のところなにも言ってこないので、エルスウェンたちのやっていることは正しい、という保障だけはあった。


「でも、しょうがないじゃないか」


「エルスとお母さまくらい読めないと効率悪いよう! これいいこと書いてないかな、って確認したら、全然違うことだったりさぁ。さっきなんて……なんだっけ? 魔法消去の防具の記述かと思ったら、『介護用尿漏れ防止下着の制作方法』だったじゃん! なんで大昔にそんなものあるわけ? 大昔すごすぎない?」


「そういうこともあるよ」


 エルスウェンは淡々と答えつつ、自分の本からは目を離さない。このやり取りは昨日から続いているので、あまり注意を払わなくなっていた。


 と、フラウムは本を示してきた。


「ほら、これは? なんて書いてあるの? なんか装備品の記述じゃない?」


「ん……ええと。『魅惑の谷間を作る矯正下着』だって」


「えっ。欲しい。超大当たりの情報じゃーん!」


 フラウムは大陸古語の辞書を片手に、かじりついてその本を読み始める。


 こんな調子で脱線を繰り返すため、進まないという理由もあった。学問的価値のある本だけでなく、母の私物、私的なコレクションの本がかなりの割合で混じっているというのが、脱線の原因である。


 ジェイはこういった作業には門外漢だということで、熊と相撲でも取ると言って外に出て行っていた。


 首を伸ばして窓のほうを見ても、そんなジェイの姿が見えるわけではないが、一応探してみる。やっぱりなにも見えない。


 エルスウェンは仕方なく、自分の本へと視線を戻した。古い森人族の言葉で連綿と書き綴られている文章を、眺めるように読んでいく。


 子供の頃から、この家にある本が友人のようなものだったため、フラウムのような苦痛は感じない。むしろ、快適ですらある。


 探索者となり、パーティを組むようになり、仲間に対して責任を持たねばならなくなった今と、本を読んでは新しい呪文を試し、修練するだけでよかった子供の頃と、どちらが楽だったかなど、比べるべくもないことだ。


 探索者としての今の気分は、控えめに言っても最悪だった。


 自分は、まったくパーティの責任を負うことができていない。


 まずは、命の保障。回復や治療の魔法を操ることのできるエルスウェンの、最も大きな仕事である。


 次に、安全の保障。生命探知魔法で索敵し、パーティにとって不利な戦闘のことごとくを回避するための策を講じる、という仕事である。


 まだある。作戦の立案。魔法使いというのは、パーティの頭脳だ。魔物に突っ込んで殴るだけしかできない探索者は、必ず死ぬ。そうならないよう、探索時には適切な作戦を立てる必要がある。


 分析、作戦立案については、必ずしも魔法使いの役目だということではない。現在のパーティでは、ラティアとエルスウェンのふたりでそれをこなしている。だが、だからといって、ラティアに任せてなにも考えなくていいわけではない。


 エルスウェンは嘆息した。今の自分には、どれも任せられない。


 黒い剣士は、ザング、ロイド、キャリスの三人を一刀の下に斬り伏せている。真っ向から戦ってのけたのはジェイとマイルズのふたりだが、これがひとりずつで相対していたら、おそらく同じ結末を辿っていたと予想できる。黒い剣士は、ジェイとマイルズを同時に相手をしてもなお、余力を残してさえいた。


 だから、戦闘中に傷を治している暇はないだろう。前衛が瓦解すれば、後衛もなす術なく斬られる。理想はなにもさせないまま一方的に倒してしまうことだが、それをするのにまず必要になる魔法も罠も、黒い剣士には通用しない。


 せめて、もう少し情報が欲しいところだった。欲を言えば、もう一度相対して戦い、色々と魔法を試してみたい。しかし、それは危険すぎる。


 他のパーティを当てにするのも、いい策とは言えないだろう。他の犠牲者が出ないことを祈るばかりなのに、都合よく情報を持って帰ってきてくれることまで期待するのは、あまりにも虫のいい考えだ。


 せめて、魔法消去さえなければ、とエルスウェンは唇を噛んだ。それさえなければ、エルスウェンとフラウムも、戦力に勘定できる。フラウムの攻撃魔法で一撃し、その隙にジェイやマイルズが畳みかければ――


 考えて、エルスウェンは首を振った。そんな月並みな方法が通用する相手ではない。そもそも、魔法消去をなくしたとしても、単純な戦闘力が高すぎるのだ。ジェイやマイルズが接近戦をしている間は高火力の魔法で攻撃することはできないし、もし黒い剣士が魔法攻撃を嫌って魔法消去の加護をつけているのなら、なおのこと魔法を撃たれるような隙は見せないのではないか。


 考えれば考えるほど、絶望感だけが募る。


 と、退屈そうに椅子に座っていた母が、弾かれたように立ち上がった。


「……まずいわね」


「なにが?」


 エルスウェンは聞き返して、ぎょっとした。


 温和な表情を崩さない母が、いつになく険しい目をしていた。子供の頃、にんじんが食べられないとごねたときに見せた顔よりも険しい顔だ。



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