第136話 決戦に向けて #1
キャリスがエルスウェンたちに合流し、解呪魔法の伝受を始めて二日が経った。
そして今日は朝から、約束通り『サブリナの台所』を借り切っての進捗報告の会が始まろうとしていた。
まず、当然のこととして。同席しているシャルロッテ王女と、シャーロットを見てマイルズたちは唖然としていた。なにも知らなかったら、そうなるのは当然だが。
エルスウェンは、ジェイ、ロイドに訊いた。
「言わなかったんだ?」
それには、あっけらかんとロイドが頷く。
「うん。だってさあ、黙ってたほうが面白そうじゃない。説明するのってなんだか難しそうだったし」
主に後者の理由でロイドは黙っていたんだろうと推察はできた。彼の言う通り、説明はかなり複雑である。
とりあえずエルスウェンが、説明をすることにした。シャーロットは幼少時に王宮に引き取られて、シャルロッテ王女と共に王女として育てられたということなど。
話し終えた後で、エルスウェンは席のひとつを見た。
そこには女王が座っていて、澄まし顔で頷いていた。
この報告会には、女王だけでなく、アミディエル、ドゥエルメもいる。
メリディス王国のトップが、大衆酒場の大テーブルに結集しているという現状だ。しかもそれは二回目だと考えると、目まいがしてくる。
なるたけそれは考えないようにしつつ、エルスウェンは言った。
「……そういうわけで。シャルロッテとシャーロットは、それぞれ古文書の解読と、解呪魔法で僕たちの力になってくれることになったんだ」
「まあ、そいつはいいが」
マイルズが顎をさすりながら、腑に落ちなさげに言う。
その顎や頬には無精髭が伸びていた。見るとベルハルトも似たようなもので、相当夢中になって訓練に打ち込んでいたようだと分かる。
「討伐にも参加するってのか? そいつは、さすがにマズくないか? 死ぬかもしれねえんだぞ?」
「覚悟の上です」
マイルズの言葉には、直接シャーロットが答えた。
「この討伐が終わったら、私も探索者として、迷宮へ挑みたいと思っています」
その言葉に、マイルズはあからさまに嫌な顔をした。
「お言葉ですがね、遊びじゃないんですぜ。おままごとや、花の冠を作るのとはわけが違う。特に、今戦っている黒燿の剣士ってのは、とんでもない怪物だ。足手まといを守りながら戦えるような相手じゃねえんだよ」
最後はもはや慇懃な調子を放棄していたが。
しかし、シャーロットは毅然と言い返した。
「遊びではありません。私には、シャルロッテの身体を治すという目的があります。その上で、この王国のため、迷宮に挑みたいのです。必要であれば、マイルズ。私の力を証明します。いつでも、私が修めてきた魔法の力をご覧に入れましょう」
言い終えると、シャーロットは右手をマイルズに翳した。
別にここで魔法を彼に使おうということではなく、右手の人差し指にある、探索者としての資格――指輪を、彼に見せただけだ。
しばらく、ふたりが視線をぶつけ合う。
十秒ほど待って、マイルズは肩をすくめた。大きく嘆息してから、エルスウェンのほうへ訊いてくる。
「魔法使いとしての腕前は、確かなんだな?」
「うん。シャーロットは、アミディエルさんに師事して、攻撃、回復両方の魔法を扱える、とても優秀な魔法使いだよ。探索者の中でも、実力はトップレベルだと思うし、僕と比べるなら、魔法を操る力そのものは、全然僕よりも上手だと思う。ドゥエルメさんから武芸も習っていて、身体能力もとても高いんだ」
「ふうん……。実力ってのは、見ただけじゃなんとも言えねえが。その目ができるってんなら、冷やかしでも、冗談でもねえってことだな」
マイルズは、こちらの言葉を咀嚼するようにゆっくりと頷いていた。
それから、もう一度シャーロットのほうへと視線を移す。
「……覚悟はよく分かった。せいぜい、死なないように頑張ってくれよ。王宮の金があるから、蘇生の金には困らないとしてもな」
「はい。ありがとうございます」
マイルズと睨み合って一歩も退かなかったシャーロットの姿に、マイルズだけでなく、ベルハルトにファルクも唖然としつつ、納得してくれたようだった。
ベルハルトが言う。
「ともかく、強力な仲間が増えたってことは歓迎しないとな。よろしく頼むよ。俺はベルハルト。このデカブツ、マイルズとは同い年で、同じ前衛だ」
「ええと……あの、俺はファルクです。まだまだ駆け出しの、未熟者ですが、前衛をやっています。よろしく」
「はい。ご丁寧に、ありがとうございます。よろしくお願い致します」
ふたりとにこやかに挨拶を交わすのを見送ってから、マイルズが言ってきた。
「で、問題の……未識別の解呪ってのはどうなってるんだ?」
「順調だよ。あと二日も詰めれば、とりあえず未識別の呪いを、双調魔法で外してしまうことは確実にできるようになると思う」
「その……双調魔法ってのはどんな技なんだ。それをお前たちが使う間、俺たちはどういう戦い方を想定すればいい?」
マイルズの問いに、エルスウェンは説明を始めた。
難しいことは省いて、双調魔法は魔法使いが力を合わせて魔法を使うことで、その効果を何倍にも高めることができ、それは魔法消去をも貫通できる、ということを話した。
前衛は、全員で頷いていた。
「つまりは、俺たちが今、ジェイに教わってることと同じだな。連携して攻撃をする、ってことだ。お前たちがその魔法を唱え終わるまでの間、死ぬ気で時間稼ぎすりゃあいいってことか」
「うん。そういうことになる。マイルズたちのほうはどう?」
「そうだな、順調だと思うぜ」
マイルズは口元は変えず、しかし目には微笑のようなものが宿っている。自信があってこそなせる顔だと分かった。
その顔で、ベルハルトたちを示した。
「少なくとも、お前たちが双調魔法とやらをこさえる時間を作ってやれると思うぜ。信頼してくれて構わねえ」
「元から信じてるよ」
こちらの言葉は鼻で笑ってから、マイルズはテーブルに上半身を乗り出した。
「未識別の解呪をしてからはどうするんだ? 親父の死体を解放できそうなのか?」
「それについては、大丈夫だと思う」
エルスウェンは、意識してはっきりと頷いた。




