第134話 手を取り合って #1
キャリス、ロイドを生家に連れてきて、今は全員でテーブルを囲んでいる。
王女とシャーロットの存在、エルスウェンと母の本当の関係性など、説明することが多かったが、ふたりはすんなりと受け入れてくれた。
王女たちとキャリスたち、それぞれの自己紹介なども済ませた後は、すぐに解呪魔法の打ち合わせに入ることになった。
ちなみにロイドは、魔法の説明を受けてもしょうがないということと、前衛の技術を自分も学びたい、ということで、すぐに(自分の足で)訓練所へ向かった。ロイドはロイドで、決戦が近いことを感じて、じっとしていられなくなったのだろう。
ついでに二日後、『サブリナの台所』を朝から借り切ってくれるように頼んでおいた。そして、全員で集まって進捗の報告をし合おう、という言伝も。
エルスウェンは、静かに、キャリスの説明を聞いていた。
キャリスは、紙に解呪に必要な、特に一般的であるとされる呪文を書き出しながら、みんなに説明をしている。
「解呪魔法は、何度も言いますが特殊な魔法です。一般的な魔法使いも、探索者の魔法使いも、まず覚えることのない魔法です。いかなる解呪も、聖堂に依頼すればいいだけですし、そのほうが成功率も高い。迷宮内で火急にそれが必要となるケースは、あまりありませんしね。せいぜいが、未識別の呪いを解呪する魔法を覚えているくらいです」
エルスウェンは、説明を聞きながら、自身の知識と照らし合わせていた。
未識別の呪いの解呪魔法は、訓練所で習うことができる魔法だ。エルスウェンも訓練所で、ある教官から教えてもらっている。
現在の討伐隊で、未識別の呪いの解呪魔法を使用できるのはエルスウェン、キャリス、アガサの三名のみだった。フラウム、カレン、シャーロットは使用できない。シャルロッテは使うことができるのだが、彼女は討伐隊ではないため、数には含められない。
「まずは、フラウム、カレン、シャーロットに未識別の呪いの解呪魔法を覚えていただきます。エルスの母上にも、協力をお願いいたしますが……」
「ええ、構いませんよ」
母がすんなりと頷く。協力とは、母の魔力で未識別品を造り出すことだ。
母はにこりと笑って、人差し指を立てた。
「せっかくだから、ゲーム形式にしましょうか。色々なものに未識別の呪いをかけますから。解呪できた子は、それを自分のものにしていい、という形式で、いかが?」
「えっ、賞品ありってことですかー! それは燃える!」
フラウムが真っ先に気勢をあげた。次にカレンが訊く。
「お母さま、どんな賞品が?」
「ちょうど、女の子たちしかいませんから。男の子がいたら困ったところだったけれど、いいものがあるわよ」
と、母は笑顔で席を立ち、小瓶やらなにやらを籠に詰めて笑顔で戻ってきた。
それをまずひとつ、テーブルに置いてみせる。
「まずはこれ。きめ細かく、透き通ったお肌を育てる美白化粧水ね。私が作ったものだから、効果はもう、バッチリよ。どんなお肌にも、コンディションにも合います。これ一本で大丈夫よ」
「買った! いくらですか!」
「ババア、これオークションじゃねえからな」
いきなり手を挙げたカレンを、フラウムが半眼でたしなめる。
母は次のものを取り出した。平べったい容器だ。軟膏かなにかが入っていそうな。
「これは水仕事の手荒れや乾燥に、すごくよく効くハンドクリームよ。しかも、全くベタつきません。お風呂上がりや、寝る前に毎日使用すればもう、手荒れとはさようなら。ほんのりと、気にならない程度に桜の花の香りがついているわ」
「わ……。欲しい……」
アガサが呟く。それから、キャリスに言った。
「キャリスさん、あの……私も参加するというのは……」
「ええ……そ、そうですね。どうしましょうか。アガサさんには、私、エルスと共に双調魔法について詰めることを考えていたのですが……」
冷静、明哲で、ロイドたちのパーティのまさしく頭脳であるキャリスだが、おそらく彼が今までに経験したことがないだろう困惑を見せていた。
が、最終的にキャリス、エルスウェンとの双調魔法で参加して、解呪できればアガサのものになる、ということで彼女は納得してくれた。
母の美容アイテムは、まだまだ出てくる。
「では次ね。これはいいものよ。塗って十分間放置して、あとは洗い流すだけ。それだけで毛穴の汚れ、黒ずみを徹底的にやっつけられる、特製泥パック。お肌メンテナンスの最強決定版よ。これも私が作ったものですから、品質は保証済みです」
「買います! 買います!」
「だから違うからなババア」
もはや立ち上がって手を挙げているカレンに、フラウムが面倒そうな突っ込みを入れている。
と、ラティアがキャリスに訊いているのが聞こえた。
「キャリス。私は前衛だが、ある程度の魔法の心得がある。双調魔法を使う者はひとりでも多くしたほうがいいだろう? 未識別の呪いの解呪魔法、教えてもらえないか。私も、解呪の力になりたい」
「そ、そうですね……。わ、分かりました。ラティアであれば、すぐに覚えられるでしょう」
「よろしく頼む。心配は無用だ。必ず使いこなしてみせよう」
キリッとした顔で言っているのだが、ラティアが特製泥パック目当てなのは見え見えだった。どうしても欲しいらしい。
「次は、吹き出物やにきびに効く、特製のお薬ね。これを塗れば、一晩で治ります」
「えっ……! 欲しい……!」
小声だが、はっきりと目を輝かせて言ったのはシャーロットだ。王女の双子であっても、あっさりと釣られてしまった。
シャルロッテだけは、よく分かっていないような顔でみんなを眺めていたが。
母は、こういう欲求に働きかけたトレーニングを考案するのが上手い。
エルスウェンは、子供の頃からこうした母のアメとムチで鍛え上げられたので、よく分かっている。どうしてもやらざるを得ないように仕向けられてしまうのだ。
籠から次々と取り出される新しいアイテムを目の前にして、狂喜乱舞する女性陣――傍目には見事に踊らされているとしか言いようがなかった。




