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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅲ 手を取り合って

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第133話 戦士の魂 #2

「ああ、ひよっこなのは変わらねえがな。ケツについてた殻が取れたって程度だな、お前は。まだまだだ」


「ひ、ひどいなぁ」


「ハッ。でも、良くなったのは確かだ。だから、俺からお前に、ひとつアドバイスをしてやる。心して聞けよ」


 マイルズはまだ不敵な笑みのままだ。真面目なことを言う気なのか、冗談を言う気なのかが顔からは分からない。


 が、ファルクは姿勢を正して頷いた。


「はい。なんですか?」


「……負けるとか、自分よりもデカい壁にぶつかるってことをありがたがれ。死ぬのは良くないがな。負けるってことが、結局、一番成長をもたらしてくれるもんだ」


「……そうなんですか? マイルズさんなんて……負けるほうが珍しいでしょう」


「珍しいかもしれねえが、ゼロじゃねえさ。訓練生だった頃は、ドゥエルメのオッサンにはなにやっても歯が立たなかったし、迷宮内で上手く行かなかったこともある」


 意外な話だった。


 そう思って黙っていると、マイルズは先を続けた。


「お前はあの怪物と戦ってぶっ殺されて、そして立ち直った。前を向いて、まだ戦える気持ちでいる。もっと強くなって、あいつをぶった斬る――その気持ちを忘れるなよ。何度やられても、何度負けても。最後まで諦めるな。砂を掴んで、立ち上がれ。そうしているうちは、何度やられても、それは本当の負けじゃねえ」


 マイルズはそこで、真剣な顔になった。


「本当の負けは、すべて諦めちまった時にやってくるんだ。いいな?」


「……はい」


「今回の討伐で、俺も、ベルハルトも……ぶっちゃけちまえば、生き残れるかは分からん。少なくともそういう戦いになるし、俺たち前衛は、エルスたちを守るためにそういう戦い方をしないといけねえ」


 言って、マイルズは顔をベルハルトのほうへ向けた。


 精悍な顔をしていた。この男が探索者最強の戦士だと言えば誰もが納得する、そんな顔で、マイルズは言った。


「もっと強くなれ――ファルク。お前はまだ若い。生き残って、もっと強くなって、俺がお前にこうしているように、次の世代の探索者に上から説教を垂れてやれ」


 マイルズは、目から力を抜くと、ふっと笑った。


「案外、気持ちいいもんだぜ。訳知り顔で、なにも知らないガキを相手に講釈を垂れてやるのもな。ストレス発散になる」


 マイルズがこうして言ってくれるのも、決して気まぐれや酔狂などではなく――歴戦の戦士であるからこそなのだろう。


 マイルズは、前衛最強の戦士として戦い続けている。ベルハルトもだ。


 彼らよりも長く戦ってきた前衛の戦士はいないと言っていい。


 それはつまり……探索者の誰よりも、厳しい戦いと、つらい別れをくぐり抜けてきた、ということなのだ。


 その彼が、こうして自分を認めて、心からの言葉をかけてくれた。


 胸に、熱い炎が燃えるような――いや、心の炉に、真っ赤な石炭を放り込まれたような。ファルクは、そんな気持ちになった。


「……はは。分かりました。覚えておきます」


 ファルクの返答に、マイルズは頷いて、にっと白い歯を見せて笑むと、拳を差し出してきた。


 ファルクも拳を出して、合わせる。


 それは、マイルズの最大限の激励だと感じた。


 正直に言うと、感激で一杯だったが、それは表に出さないようにして堪えつつ、ファルクは頷いた。


 この最強の剣士であり戦士である男が死ぬだなんて思えなかったが、これはそういう戦いなのだと、思い直す。


 これからの戦いに、なにも約束されたものはない。


 ファルクも、もう一度殺されるかもしれない。


 だが、もう逃げることはない。


 ジェイの言う技術を身につけて、なんとか、後衛のエルスウェンたちの助けになってみせる。それができれば、他にはなにも要らない。


「だああ、クソ! マジでどうなってるんだ! 当たらねえな!」


 叫び声に、ファルクはジェイたちに意識を戻した。ベルハルトが必死でジェイに斬り掛かりながら、絶叫している。


「ンなへっぴり腰じゃあ、大根だって斬れねえぞ! ベルハルト!」


 楽しそうに、マイルズが野次を飛ばす。


「うるせえなぁ! お前だって似たようなもんだったろうが!」


「お前よりはマシだったぞ! 剣にハエが止まってんじゃねえか!」


「うがあああ!」


 叫ぶベルハルト。回避に専念するジェイも、薄く笑っていた。


 これを見て、ファルクはまたひとつ、なにかが分かったような気がした。


 この達人級の戦士たちは、常に楽しんでいる。


 生きること、探索すること、戦うこと、比べ合うこと、すべてをだ。


 だから、湿ったものがない。マイルズはいつも怒っているようで、それを引きずったところは見たことがない。


 ベルハルトはいつも朗らかで、自信満々だ。


 ジェイは、良く知らないが、常に自然体でいることは分かる。


 ファルクは、自分が今まで自省的すぎたと感じていた。


 しかし、マイルズが言ってくれたように、黒燿の剣士との戦いを経て、自分の中にあるものが、大きく変わった気がする。


 今までは、自分が弱いということが気になって仕方なかった。


 が、今は――もう少し、外を見ることができている。そんな気がする。


 こういう感じでやっていけばいいのかと、腑に落ちた気がした。


 その気持ちのまま、ファルクもベルハルトに言った。


「ベルハルトさん! まだ十分も経ってないですよ!」


 すると、マイルズがちらりとこちらを見て、にやりと笑った。それから、ベルハルトに声を張り上げる。


「おい、ひよっこに言われてるぞベルハルト!」


「聞こえてらぁ! 上等だよ!」


 ベルハルトの剣速が、ぐんと上がった。が、ジェイには届かない。


「くそっ!」


 悪態をつくベルハルトに、マイルズと一緒に笑う。


 笑いながら、ファルクは感じていた。


 ――これなら、きっと……黒燿の剣士を倒すことができる。


 それは慢心でも甘えでもなく、自然にそう思えた。


 マイルズたちに認められたことで、本当の意味で、一緒に戦える。


 それをファルクは、内心で喜びと、楽しさと共に噛みしめていた。



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