第131話 キャリス #6
わざわざ進んで話す必要はなかったと思う。
キャリスのことは信頼している。彼が、自分にはすべての外法を解呪できると言ったなら、その理由を聞かずとも信じられた。
だが、彼自身が、それをよしとしなかったのだろう。
彼はその口で、話の末尾を結んだ。
「私は父を殺害しましたが、正当防衛と、父が外法に手を染めたことが明るみになり、私の罪は不問となりました。その代わり……父の名は聖堂から完全に除名され、存在すらなかったことになりました。私も、司祭を続けられませんでした」
大司祭が外法を使ったとなれば、聖堂の存在を揺るがしかねない不祥事だ。
ゆえに、キャリスたち一家の存在を抹消することで、そのすべてをなかったことにした、というのか。
あんまりだと、エルスウェンは思った。
が、キャリスは穏やかな表情だった。
「……私は、探索者となることにしました。父から受け継いだ力を活かせる最適な仕事が、探索者だと思ったからです。父から受け継いだ力でパーティを助け、役に立つことで……父や母への償いとしたい。そう思っていました」
キャリスはこちらを見て、小さく微笑んだ。
「ですから……エルスウェン。必ず、あなたの父上を救いましょう。双調魔法という技術は、私の身につけてきたものに近い。アドバイスもできるはずですから。ですから……あなたの父上の御霊を、あるべき場所へと還せるように……。そのために、私はすべてを賭けて戦うつもりです。私と……父母の名、その誇りにかけて」
「……ありがとう、キャリス」
エルスウェンが手を差し出すと、キャリスは照れ臭そうに眼鏡を直して、握手に応えてくれた。
手を握ったまま、エルスウェンは言った。
「……お父さんは、間違いなく、正義の人だったと思う。きっと……自分のやってしまったことが分からなかったわけでもないと思う。だから……」
ほんの少し、ボタンを掛け違ってしまっただけなのだろう。
キャリスも、深く頷いた。
「はい……。父は狂いながらも、分かっていた。だから、私に頼んだのだと思います。ですから、今、こうして生きている私がすべきことは……天から見ているだろう父と母に愧じぬよう、正しいことのために、この力を使うことです」
ひとつ大きく呼吸をすると、キャリスは優しく微笑んだ。
「父がそういう人でいてくれたからこそ、こうして役に立てるのです。最後に、父は……道を踏み外してしまったのかもしれませんが。それでも私にとって、誇るべき親であり……師でもあります」
「うん。じゃあ……キャリス。僕の家に来てくれないか。キャリスが来てくれれば、魔法使いは全員揃う。全員で、解呪魔法と、双調魔法を完璧にマスターしよう」
「はい。ですが、時間がありません」
「時間が?」
「ええ。迷宮に蓋をしているでしょう。アミディエル様の結界で、です」
「うん」
「迷宮内の瘴気は、刻一刻と増していっている。ことによると……黒燿の剣士を操る魔族は、それをも狙いとしていたのかもしれません」
キャリスの言葉に、エルスウェンはまさか、と思った。
「迷宮内の瘴気を濃くすることで……自分たちの力を増そうと?」
「あり得ない話だとは、断じられないでしょう。ですから、できるだけ急がねばならないと思います」
「できる努力は、全部するつもりだよ。ジェイたち前衛も、そのつもりだから」
「ええ。……頑張りましょう」
エルスウェンが頷くと、キャリスも頷く。
と。
「ね、ねえねえ! 俺は? 話から置いていかないでくれよ!」
ロイドだった。小さい身体をアピールするように、飛び跳ねている。
それを見て、エルスウェンとキャリスは笑った。
「とりあえず、一緒に来る?」
「え、いいの? エルスのお母さんにも会える? 挨拶したいなと思ってたんだ」
「うん。でも、ロイドは一応、前衛だろう? 僕たちと一緒じゃなくて、ジェイたちと特訓したほうがいいのかも」
「ああ、そっちも惹かれるなぁ。でも、一応、エルスの家に行ってみたいし。そっちを先にしてもいいかな」
「もちろん。じゃあ、早速行こう。ロイド、これ、持っててくれるかな」
エルスウェンは、王宮で女王からもらった菓子の包みをロイドに渡した。
「なにこれ?」
「お菓子だよ。女王様にもらったんだ」
「ど、どういうこと?」
「向こうで説明するよ。言ってなかったけど、新しい仲間もいるんだ」
「えっ? どういうこと? 新しい仲間?」
ひたすら同じ疑問符を繰り返すロイドに笑ってから、エルスウェンは転移の魔法の詠唱を始めた。
黒燿の剣士の討伐はどうなることかと思っていたが、ここにきて、一筋の光が差してきたように感じていた。
きっと、キャリスの父と母も見守ってくれている。
偉大なる大司教の抱いていた正義の心に応えるためにも、そしてそれを話してくれたキャリスの心に応えるためにも。
決意を新たにして、エルスウェンは魔法を発動させた。




