第127話 キャリス #2
キャリスは話を続ける。
「死体を蘇らせる魔法は、古代の頃から魔族が得意としていたようです。……エルスの父が今、操られているように」
「……ええ」
「前提として、我々司祭が聖堂で行う死者蘇生は、完全なる蘇生です。が、外法はそうではない。あくまでも擬似的に……《《生き返ったように見せる》》、そういう魔法を指します。そして、元々魔族の魔法であるから、外法と言われているんです。効果、由来のどちらを見ても、正規の魔法とはとても言えないというわけです」
キャリスは一度、そこで言葉を切った。エルスウェンが相槌を打つと、彼は話を再開する。
「そして、それを真似て、使おうとする魔法使いが、我々の生きるこの地上にも、いたのです。古くは、魔族と取引をして、外法を直接教えてもらった者もいる、という話すら伝わっています」
「そうなんですか?」
「ええ。そうなんです。死霊術、邪霊術、反魂術などの言葉を頼りに文献を当たってみると、想像以上の多さに目を回しますよ。遙か昔から今に至るまでの、禁忌に触れてきた人の多さにね」
嗤うような調子だった。が、キャリスの顔は、無表情だ。
「外法、邪法は、単純な詠唱で済ませるものから、遺髪や関係者の血を用意して……と儀式めいたことを要求するやり方など、方法は多岐に渡ります。が、とどのつまりは魔法です。儀式めいた準備などはどれも、魔法のイメージを高めるための補助に過ぎません。問題は、そのイメージの内容なんです」
「イメージの内容は、魔法の内容に直結する。つまり、外法の結果は違ってくる?」
「そうです。まず、外法は失敗すると、半屍人を作ります」
「半屍人……?」
「はい。摂理を超え、欺く方法で蘇ろうとして失敗をすると、蘇ったように見えても、それはもはや生者ではなくなっています。死体でもありません。人格は存在せず、あるのは本能のみ。大抵は食欲だけで動き回り、生きた動物や、生肉だけを喰らう怪物に成り果てます」
「……恐いですね」
「ええ。どういうわけか、種類の違う外法であろうと失敗すればすべて半屍人になってしまうのですが……それについては、今は関係ありませんね。私の言いたい問題は、外法は失敗結果がひとつでも、魔法の種類は多岐に渡るということです」
「……何種類あるんでしょうか」
「五つです。まずは、魂を死体へと封入する方法です。そのひとつは、外法の術者が、擬似的に蘇らせる死者の魂を再現し、それを死体へと込める方法。その他には、死体の当人とは全く違う魂を代わりに入れて肉体を蘇らせる方法があります。これは動物や魔物の魂を用いて蘇生させる場合と、人の魂を用いる場合があります。なので、これはそれぞれ別に数えます」
つまり、キャリスは五つの内の三を教えてくれた。エルスウェンは気味の悪さを感じていたが、彼はお構いなしに続けた。
「次は、死体を操る方法です。操り人形のようにね。邪法の使い手が魔力で自ら死体を操作するものと、ごく簡単な指令を与え、自動的に実行するようにするものがあります。この方法も、それぞれ別のものと数えます」
「それで、全部なんですね」
「調べあげた限りは、この五つに集約されます。なので、外法の解呪魔法は五つのパターンそれぞれに別のものが必要なんです。そして、そのどれもが未識別の呪いの解呪よりも、圧倒的に難しい魔法です」
五個のパターンを覚えなければならない上に、その魔法の難易度が著しく高いというのは、想像以上だった。
最悪の場合、黒燿の剣士に五度の魔法を試さねばならないのか、とエルスウェンは暗澹たる気持ちになった。あの敵と戦いながらそんなことをするなど、とても現実的ではない。
そして、そこまで難しい魔法だと聞いて、ひとつ疑問が浮かぶ。
「キャリスは、五つの内、どの解呪ができるの?」
それだけ難しい魔法なら、いくら元司祭のキャリスであろうと、すべての解呪が可能だと考えるのは都合が良すぎると感じたのだ。外法の解呪は、そもそも司祭であろうと担当外だろう。
キャリスの使える解呪によっては、戦術の大幅な見直し、あるいは根本からの変更を余儀なくされることになる。
エルスウェンは、覚悟をしてキャリスの言葉を待った。
彼が、口を開く。
「私は――すべての外法の解呪ができます」
「……すべて?」
予想外の答えだった。
ただそれは、彼が司祭として、魔法使いとして優秀であることとは、関係がない……なにか、別のことが関係しているような気がした。
キャリスはなおも、視線を空に固定したままだ。
「ええ、すべてを解呪できます。できるんです、私には……」
その彼の言い様に、エルスウェンの脳裏に言葉が過ぎった。
アミディエルの言葉だ。
『彼も並々ならぬ事情で、司祭を辞しています』――
キャリスが司祭を辞めた理由は、おそらく、蘇生の魔法……それも、外法と呼ばれるものが関係しているのだという気がした。
それを彼は、話そうとしてくれているのだろう。自分の傷口に爪を立て、抉り、再び血を流すことになることであろうとも。
そうすることが黒燿の剣士の打倒に必要だから、そうするのだろう。
エルスウェンはせめて、黙っているのでなく、こちらから訊ねようと思った。
「キャリス。あなたが司祭の時に……なにか、あったんですね」
ようやく、キャリスは空から、こちらへと視線を移してきた。
眼鏡の奥にある彼の瞳は、どこか虚ろな光が灯っている。
その顔のままで、彼は頷いた。
「ええ。今日、私がここ――墓地を訪ねたこととも、関係があるんです。……聞いていただけますか。エルス」
キャリスは、まるで罪人のように、告解でもするかのように言った。
エルスウェンは、ちらりとロイドを見た。彼は無言で頷く。ロイドはすでに、キャリスから事情を聞いているのだろう。
「はい。……聞かせてください」




