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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅲ 手を取り合って

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第126話 キャリス #1

 聖堂へやってきたエルスウェンは、入口付近にいる司祭のひとりを捕まえて、キャリスを見なかったかを訊ねた。


 その司祭はなにも知らず、その後別の司祭を訊ねて四人目で、ようやく居場所が聞けた。


 なんでも、ロイドを伴って共同墓地のほうへと向かったらしい。


 共同墓地は、王都を南門から出た先の、街の外れにある。


 歩かねばならないことにうんざりして、転移魔法を使ってしまおうかと考えたが、行き違いになってしまうことを怖れて、エルスウェンは結局歩くことにした。


 三十分ほどをかけて、エルスウェンは共同墓地に辿り着いた。


 当然の如く閑散とした墓地で、キャリスは簡単に見つかった。


 彼に近づいて、声をかける。


「キャリス!」


 呼ばれると、彼はすぐにこちらに気がついた。


 脇に立っていたロイドも、手を振ってくる。


「エルス! こんなところにどうしたの!」


「キャリスに用があって、聖堂で居場所を聞いたらここにいるって。だから」


 ロイドに答えると、キャリスは眼鏡を直しながら訊いてきた。


「私に用ですか?」


「うん。解呪の魔法を貫通させる方法が分かったんだ」


「それは……本当ですか?」


「本当だよ。あの黒燿の剣士の未識別の呪いは解除できる」


 エルスウェンは言いながら、巻物を取り出した。キャリスに差し出す。


 彼はすぐに読み始めた。それから、言ってくる。


「この方法は……。まさか」


「アミディエルさんにも会って、説明をしたんだけど。彼は聖堂の儀式のやり方と似ているって指摘をしていた」


 エルスウェンが簡潔に言うと、キャリスは驚いた顔のまま頷いた。


「まさしく。呪文、詠唱、イメージの共有……この巻物に書かれていることはまさしく、司祭が生涯をかけて修行するべき事柄です。……これを実戦に用いるとは、考えもしませんでしたが。双調魔法という名前があったのですね。しかも、古代に存在していた技法だったとは……」


 キャリスは元司祭であるからこそ、双調魔法の難易度がよく分かるのだろう。信じられない、という口調だった。


「でも、実際に魔法消去の加護の貫通には成功してるんだ。未識別の解呪魔法なら、僕もアガサも使えたから。それを合わせて」


「できたんですか? ……この巻物を見つけて、どれほどです?」


「昨日見つけて、昨日できたよ。まだ成功率は、半々、ってところだけど」


「半々? それは……恐ろしいですね」


 キャリスは呆れたような顔をしてから、首を振った。


「我々司祭は、最低でも十五年は修行をしないと、儀式に参加すらできません。儀式の形式と、そのための魔法を使いこなせるようになるには、それだけの時間をかけねばならないのですよ」


「え。いや、でも。僕たちはそれほどの精度を身につけないといけないって前提ではなかったので……」


「それでも、一日も経たずに成功させるのは破格ですよ。司祭には、何年修行を積んでもイメージの共有ができない者もいます。そういうものが、ひとりでも仕事ができる診療所などに回されるのですが」


 キャリスは感心したように頷いた。


「やはり探索者の魔法使いというのは、優秀な人ばかりのようですね」


 眼鏡をくいと直しながら言うキャリスに恐縮しつつ、エルスウェンは訊ねた。


「でも、最後の関門があるから、それについて、キャリスと話をしたかったんだ。あの黒燿の剣士を操る魔法を外すには、そのための解呪魔法を双調魔法にする必要があると思うから……」


 それに、キャリスは頷いた。


「それを、エルスが覚えようというのですね。私とふたりで、双調魔法をと」


「そうです」


 エルスウェンの言葉に、キャリスは小さく頷いた。


 それから、彼は天を見上げる。


 ここではない、どこかへ視線を送りながら、彼は言った。


「死者を操る魔法は、外法、邪法と呼ばれます。他にも様々な呼び名がありますが、どれも邪悪であることを意味する言葉で呼ばれるのです」


「……死者を冒涜しているからですか?」


「そうです。が……冒涜というのは、犯す、けがすという意味です。そちらよりはむしろ、我々司祭は恥ずべきこと、忌むべきこととしてその魔法を呼んでいます」


 キャリスはいつの間にか、司祭の目線になっているようだった。


 彼は遠くを見つめたままだ。ロイドは気まずそうに、黙っている。


 エルスウェンはひとまず、キャリスの言葉に答えた。


「つまり……禁忌に触れるということ?」


「そうですね……そのニュアンスが、最も近いですね。死者の蘇生は、通常では許されない行為です。我々は探索者に限り、この禁忌に触れることを許されている。それも、神の祝福を受けた特別な探索者の肉体であるからこそ蘇りが許されているのだ、という理屈でです」


 その理屈は当時の賢者集会の都合によって、後づけでもたらされたものだろう。


 キャリスの口振りからすると、彼はどう思っているのかは知らないが、そう教えられることによって、司祭は蘇生の儀式に対する折り合いをつけているようだ。


「死者を蘇生させるための魔法には、様々な種類があります。まずは単純に、本人の魂を肉体へと呼び戻すもの。蘇生の儀式ではそれが使われます。これは老衰、病死をした肉体、死後七日が経過した肉体には効果がありません。他にも、肉体は生命維持に十分な状態で残っていなければ不可能など、加護と祝福を受けておく以外にも、様々な制限があります」


 それは探索者の蘇生条件そのものなので、エルスウェンでも分かることだった。


 キャリスは話を進めた。


「これ以外の方法で死体を蘇らせることは、王国の法令でも禁じられています。ですが……どれだけ禁じられていようと、人は――人であるがゆえに、禁忌に触れようとしてしまうのかもしれませんね」


「人で、あるがゆえに?」


「ええ。愛する人を亡くした時に、それを蘇らせたいと思うのは、自然な欲求でしょう。花は自然じねんのまま、散るに任せておくのがいい――そう割り切れる人というのは、はたして、どれほどの数、いるのでしょうか」


 それは分からない。エルスウェンは首を振るしかなかった。


 が、彼の言う通り、少なくないのではないか、と思えた。



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