第125話 禁忌 #3
「このまま僕たちが……探索を続けたとしたら。紅髄竜の預言にある残りの使者たちが、また世界を滅ぼすためにやってくるのでしょうか」
そんなことを訊いても、アミディエルですら分かるわけがない。
が、訊かずにはいられなかった。
アミディエルは曖昧に頷いた。
「そうかもしれません。そもそも、それを怖れ、対策するために、王宮の祖先たちは竜骸迷宮を攻略しようと決めたのですからね。滅びに備え、迷宮を攻略するために新たに禁忌を犯す……なんだか馬鹿げているように思えますが、生きるということは、結局のところ……そういうものなのかもしれません」
「どういうことです?」
「死ぬことが摂理であるなら。生きようとすることもまた、摂理だということです。死んだものは生き返れない。ならば、我々は必死でそれに抵抗する。どれも自然なことです。生きようとしない――それこそが、本当の禁忌なのではないでしょうか」
アミディエルは続けた。
「エルスウェン君たち探索者は、命の危険も省みず、あの竜骸迷宮に挑んできました。それは尊敬に値します。我々には、後方からの支援しかできませんが……あなた方はまさしく、生きるために戦っている。これから先の未来を生かすために戦っているんです」
そこで、アミディエルは言葉に力を強く込めた。
「これが至高神の禁忌に触れるというのなら。そんな神など、こちらから願い下げですね。使者を送ってくるというのなら、受けて立ちましょう。インフォルムのように、必ずや討伐してみせる……」
と、彼はそこまで喋って苦笑した。
「申し訳ありません。これではただの、私の個人的な感情論ですね」
「いえ、そんな」
「これで分かったでしょう? 何百年生きていても、森人というのはこうして個人的な考えに走りがちなんです」
それにはなんとも言えず、エルスウェンも苦笑を返した。
アミディエルは巻物をこちらに差し出してきた。それを受け取り、懐にしまう。
「エルスウェン君は、キャリス殿をお捜しだと言っていましたね。生憎、今日はここには来ないんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。お引き留めすることになって、申し訳ありません。今日は、キャリス殿は解呪の魔法の理解を深めるため、『祝福の聖堂』を訪ねるそうです」
それを聞いて、エルスウェンは身体の動きを止めた。
「聖堂に……ですか」
「ええ。ですから、ちょうどいいと思って、話をさせていただきました」
アミディエルは厳かに、言葉を続けた。
「キャリス殿であれば……元司祭なのですから、双調魔法のコツを掴むことは容易なのかもしれません。が、彼も並々ならぬ事情で、司祭を辞しています」
「……そうなんでしょうね」
「ええ。詳しい話は、キャリス殿から直接伺うとよいでしょう」
「分かりました。聖堂に、行ってみます」
立ち上がり一礼して、エルスウェンは踵を返した。書庫を立ち去ろうとする。
「エルスウェン君」
と、背中に声が掛かり、足を止めた。振り返る。
アミディエルは席を立ち上がると、こちらに言ってきた。
その瞳には、強い光が宿っている。
「古代に失われたはずの奥義である双調魔法を復活させることは、新たな禁忌に触れるのかもしれません。ですが、問題を解決すれば、またそこから新たな問題が生まれるのは道理なんです」
息を継ぐと、アミディエルは胸に手を当てて言った。
「困難を克服して前に進むということが、生きるということです。詭弁でしかないのかもしれませんが……私は、この探索者というシステムが、大きな禁忌を犯したものだとは思っていませんよ」
エルスウェンは頷いた。
命には限りがある。その大原則を犯してはいない、という小理屈よりも、心のどこかで、自分たちは正しいのだという確信がある。
言葉にすることは難しい。言葉の代わりに、マイルズたち探索者の仲間や、ザングのように死んでいった仲間や、父の話が浮かんでくる。
それを胸に抱くと、決して探索者が間違っているとは思えなかった。
ただの身びいきなのかもしれない。それでも――
自分たちは、戦い続けなければならないのだ。それぞれの理由を胸にして。
それが探索者だ。誰にも、文句は言わせない。
エルスウェンは決然と応えた。
「ありがとうございました、アミディエルさん。僕、キャリスの所へ行きます」
「はい。お気をつけて」
アミディエルは頷いて、またなにかの本を探す作業へ戻っていく。
今度は振り返らず、エルスウェンは書庫を後にした。




