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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅲ 手を取り合って

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第120話 女王陛下 #4

「魔法は、病に対してはほとんど使えませんからね……。苦痛を和らげたり、対症的にしか効果を発揮できないと……母ですら、そう言っていました」


「うむ。生老病死の苦しみは、魔法では取り除けぬ。アミディエルも、そう言っておった。それを超越しようと試みた古代文明は、脆くも滅んだというのだからな。分不相応な望みはほどほどにしておけということだ」


 そう結んでから、女王は言い直した。


「シャーロットの母は、身体を悪くして寝たきりであった。幸い、流行り病には罹らなかったが。市井には、彼女を看られるものが誰もいなくなってしまった。わらわひとりでは、手も足りず、薬も足りず……どうしようもなかった」


「……そうだったんですか」


 エルスウェンは、かぶりを振った。


 シャーロットの生い立ちに、そういう事情があったとは。


 そういった暗い影は、彼女からはなにも見えなかった。双子として育てられたことにも、納得どころか自身の誇りとしているような、そんな素振りだったのに。


「あれの父も母も、立派な人であった。母親は特にな、今際いまわきわであっても、自身の治療よりも、市井の人を気にかけてほしいと言い、そしてシャーロットのことを頼むと言ってな……立派な人であった」


「……すごい人ですね」


「うむ。母としての手本のひとりだよ、未だにな」


 女王は頷いて、お茶を取った。


 エルスウェンもそれに倣い、口を湿らす。


 しばし沈黙を挟んでから、女王は訊いてきた。


「そなたは、わらわになにか質問はないか?」


「え?」


 まさかの言葉に、硬直する。


 問いの通りに馬鹿正直に考えて、過ぎったのは先ほどファルクに訊かれたことだった。


「……あの、僕の父のことは、知っていますか?」


「白銀の剣士か」


 女王は呟くように言うと、頷いた。


「私は、ほとんどは知らぬのだよ。白銀の剣士を重用していたのは母でな。……それについて、そなたにどう話そうかと思ってはおった。どう詫びれば良いものかと」


「わ、詫びる?」


 困惑して聞き返すと、女王は頷いた。


「わらわの母は、白銀の剣士たちのパーティの活躍に、大層お熱であったのよ。迷宮を攻略できる、ついに神の秘宝とやらを手中に収められる、とな。特別に白銀の剣士たちを支援し、何度も彼らを迷宮へ送り込んだ」


「そうだったんですか」


「うむ。だから……白銀の剣士は、王宮が殺したようなものだ。十年前の流行り病でパーティの生き残りであった探索者も亡くなり……なんと言えばよいか」


 そこまで聞いて、女王の詫びるという言葉の意味を理解した。


 彼女は彼女で、罪の意識を感じていたのだ。


「それは違いますよ。父は父の信念をもって、踏破のために迷宮へ挑んでいたはずです。陛下が詫びる必要なんて、ないですよ」


「……だが、類い希な剣士を、少しも省みなかったのは事実だ。そして、白銀の剣士だけに注目し、そのパーティに注意を払わなかったのだ。他の探索者たちにもな。王宮の罪は重い」


 そういうことだったのか、とエルスウェンは内心で頷いた。


 マルガレータ女王が探索者たちに大きな敬意を払い、こうしてひとりひとりを大切に扱ってくれるのは、女王としての体裁以上のものがあったのだ。


「……というわけで、すまぬが、わらわ自身は、白銀の剣士については詳しくを知らぬ。当時の活動報告や、その類に目を通してはいるが、裏を返せばその程度でな。アミディエルや、ドゥエルメのほうが詳しく聞けるであろう」


「分かりました。ありがとうございます」


 実際に聞きに行くかどうかは微妙だが、エルスウェンは頭を下げた。


 自分自身、父のことを深く知りたいとはあまり思っていない。


 これから倒さねばならない相手だ。特に、自分はイメージを使用する魔法でもって、黒燿の剣士と対峙せねばならない。


 その際に余計なことを考えたくはなかった。自分だけならいいが、あの剣士を前にためらいなどを覚えたら最後、味方が殺されてしまう。



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