第119話 女王陛下 #3
「驚いたであろう? 王女がふたりいる、ということに」
「はい。おふたりとも、本物の双子みたいにそっくりで。びっくりしましたね。話してみると、性格……って言うんでしょうか。感じが違うので、間違うことはないんですが」
「うむ。性格は違うがな、見た目は……本当にそっくりであろう。私も一目シャーロットを見たとき、目を疑ったほどだ。成長しても、うりふたつでな」
「シャーロットは、小さいときに陛下に引き取られたとか」
「うむ。あれは、この王宮の衛士と、侍女の娘なのだ」
それは初耳だった。こちらの反応を見てか、女王は眉を上げた。
「あれから聞いておらぬか」
「はい、まだ、そういう話までは……」
「そうか。シャーロットは、父を早くに亡くしてな。母も身体を悪くして、寝たきりになっておった。あれが、まだひとつか、ふたつの頃だな」
「そうなんですか」
エルスウェンが頷くと、女王も相槌を打った。
「そうだ。初めにシャーロットを影武者へ仕立ててはどうかと打診してきたのは、私の母……先代の女王よ。あれの母も、とてもシャーロットの面倒を見られないからと……王宮で面倒を見てもらえるなら、とふたつ返事であった」
そう語る女王の目には、どこか悲しそうな、陰のようなものがあった。
「私も、最初は影武者としてあれを育てるつもりであった。シャルロッテは、生まれたときから身体が弱くてな。侍医や司祭にもなぜか分からぬ、原因不明の虚弱体質よ」
「母は……なんらかの原因があるということを言っていましたが」
「本当か?」
女王は目を丸くした。
「賢者集会の面々――特に、アミディエルだけは、なんらかの原因があることを示唆してはいた。それが、迷宮に根ざしている可能性もな。そちらの母君は、そう言っていたか?」
「ええと……そうですね。黒燿の剣士を倒して、それからであれば治療の方法の話をしようって言っていましたから。たぶん、迷宮に関係があるんでしょう」
もっと踏み込んで推測をすれば――おそらく、シャルロッテの体質は、なんらかの呪いかなにかによるものなのだろう。そして、それをシャルロッテにかけているものは……
「そうか。治せるのか……。それは、良いことを聞かせてもらった」
女王の言葉に、エルスウェンは思考を中断した。
見ると、女王はなにかに迷っているようだった。
「どうかしたんですか?」
訊ねると、女王はやっと口を開いた。
「たとえばだが……。黒燿の剣士の討伐後に、娘を治すために迷宮から手がかりを見つけてほしい、と言えば……そなたらは、手を貸してくれるか?」
「それは、もちろんです」
エルスウェンは、一も二もなく頷いた。
「シャルロッテを治したいというのは、みんながそう思っていますよ。シャーロットや、陛下だけじゃありません。少なくとも僕は……黒燿の剣士を討伐した後の目標のひとつに、シャルロッテを治すことを考えています」
「そうか。ありがたい」
女王は深く頷いた。
「しかし、今は討伐に集中せよ。遠くを見すぎれば、足元を掬われるぞ」
短く言って、女王はふと言葉を切った。
「そもそも、なんの話であったか……そうだ、シャーロットの話であったか」
ぽんと手を打って、話が元に戻る。
「十年前に、流行り病があったであろう?」
「あ……はい。そうでしたね」
「そなたのところは、無事であったか?」
「はい。僕は……十年前はまだ家にいて、母の結界に守られていましたから」
「そうか。……王宮は、途方もないほどの被害を受けてな」
「はい」
エルスウェンは、粛々とそう答えるしかなかった。
当時の流行り病の被害について、生家に暮らしていたエルスウェンは、ほとんど知らなかった。十五歳になり、訓練所に通うために王都へ出てきて、初めて流行り病が王宮へともたらした被害を聞いたのだった。
「当時、聖堂の司祭や侍医は王族の看護にかかりきりだった。市井の医療体制も、完全に崩壊していてな……。私もある程度、回復や治療の魔法を使えるが、病魔にはほとんど効果がなかった」
女王の言葉に、エルスウェンは頷いた。
回復、治療の魔法を母から習うときに口酸っぱく言われたことは、魔法で病の類を完全に治すことは不可能だということだった。
魔法の力をもってしても――それは、魔法を極めたエルスウェンの母でも――どうしようもないものが、世の中にはよっつ、あるという。
老いと病。そして、生まれてくることと、死んでいくこと。
『祝福の聖堂』においても、老衰、病死をした探索者を蘇らせることはできない。
あらゆる奇跡を起こすことのできる魔法といえど、生命を創ることと、老いや病、そして死――自然の摂理の究極としての死には、どうしても逆らえないというのが、最低限の決まりであるという。




