第118話 女王陛下 #2
王都内での魔法の使用は大っぴらに禁止されているわけではないが、みだりに使用することは控えるべきという不文律がある。
エルスウェンは北門の手前まで転移すると、そこからは徒歩で王宮を目指した。
王宮前の衛士たちに討伐隊の徽章を見せ、中へ入れてもらう。と、驚くべき人といきなり出会う。
「エルスウェンではないか。娘たちは元気にしているか?」
女王陛下だった。大ホールをこちらへ向けて歩いてきていると思ったら、すぐに声をかけてきた。
エルスウェンは足を止めて一礼をした。質問にも答える。
「はい。シャルロッテ殿下はすっかり、体調も良いみたいで……あの、王女殿下にはとても力になっていただけて、感謝しております。シャーロットも」
「そうか。それはよかった。あれは本の虫だからな。突然そなたらの手伝いをしたいと言い出したのを聞いたときは、どうするかと思ったが。役に立ったのならよい。シャーロットもな、あれも魔法の稽古には、ずいぶんと熱心であった。きっと、力になれるであろうとは思うが……」
女王は苦笑していたが、かなりの心労があっただろう。それでも娘をあんな街外れの得体の知れない屋敷に送り出したのだから、肝が据わっているというか、なんというか。
「ところで、王宮には何用か? 古文書の解読とやらは終わったのか?」
そう言ったあと、女王はまた苦笑した。
「すまぬな、立ち話とは無粋であった。少々、わらわも動転していたらしい。時間は? 急ぎの用か?」
「ああ、いえ。キャリスにちょっと話を聞きに来たというだけで、急ぎでは」
「では、こちらで話そう。そなたとは、かねてよりじっくりと話をしてみたかった」
と、女王は侍女たちになにやら耳打ちをすると、ひとりで歩いていく。
ひとまずそれについていくと、サロンへ辿り着いた。
「適当に座るがよい。すぐに茶と菓子も来る」
女王に勧められて、なす術なくソファへ腰を下ろす。信じられないほど柔らかい、未体験の座り心地をしたソファだった。
やがて、お茶と菓子を持った侍女が入ってくる。それを払うと、なんと女王陛下自らが、お茶と菓子を準備してくれた。
「へ、陛下。僕がやりますよ」
「ここはわらわの王宮である。ならば、わらわがもてなすのが道理であろう? 特にそなたは、討伐隊の主力なのだからな」
わずかに笑みを浮かべて、女王は言う。エルスウェンはひたすらに恐縮しながら、なぜ豪華な談話室で、女王陛下とふたりきりでの対談が始まりそうなのかを必死で考えていた。
自分はただ王宮を訪ねただけだ。討伐隊の主力というのも、なんだか微妙に間違っているような気もする。
ひたすらに困惑するこちらをよそに、女王はお茶を一口飲むと、話し始める。
「改めて、不肖の娘たちが迷惑をかける。そちらの母の手を煩わせていないとよいのだが、なにか言ってはおらぬか?」
「ああ、それは全然、大丈夫です。むしろ、シャルロッテ王女と、シャーロットの優秀さに、すごく感心してましたよ」
「そうか。それならば、よいのだが」
女王は堪えきれないように、ふふっと笑った。
「まさか王女がこっそりと外泊とはな。私もそんなことをした覚えはない」
その許可を出したのはこの女王なのだから、咎めたり後悔しているということではなく、単に面白がっているだけのように見える。
それから、女王は品定めをするような目になった。




