第115話 団結と協調 #4
と、フラウムとカレンが、再び詠唱に入るのが見えた。ふたりは揃って手を伸ばし、魔力を集中させ始める。
「あれは……!」
シャーロットが声を上げた。エルスウェンも声こそ出さなかったが、恐らくは彼女と同じような心境になっていた。
先ほどの失敗例とは、魔力の高まりが明らかに違っていた。ふたりから立ちのぼる魔力が、ほとんど同じだ。そして、ひとりで魔法を使うときよりも出力は抑えているのに、ふたつの魔力が重なり合って、強いうねりを生み出している。
波と波が重なり、何倍も大きな波を作るような、そんな具合だった。これから使う魔法のイメージを、ふたりで完璧に共有できているのだろう。
同じタイミングで、ふたりが唱える。
「隠り世に伝う、浄罪の猛火よ! 現世に顕現し、咎人の業を暴け!」
より簡潔になった呪文が結ばれた。すると――
ふたりが指し示した地面に、五メートルはある火炎の柱がそそり立った。
エルスウェンは、思わず手で目を庇った。他のみんなも似たような反応だ。
火柱が現れるところまでは、先ほどと同じであったのだが、その火柱の様子が、まるで違うのだ。
まず、色が青白い。通常の火炎の色をしていなかった。
そして、音がしない。無音の火柱は、とにかく不気味だった。
これは普段フラウムが扱っているような火炎魔法ではない。明らかな、双調魔法の成功だという確信があった。
やがて、ふっと火柱が消える。たったそれだけで、野原が暗くなったと錯覚するほどだった。
呆気にとられていると、フラウムが大きなガッツポーズをした。
「よっしゃあー! これ、成功だろー!」
「ええ、やったわね!」
フラウムとカレンは抱き合って喜んだ後、ハイタッチまでしていた。
共同作業を経て、仲も分かりやすく良くなったらしい。
が――
「私のおかげだよな、ババア!」
「ええ、フラウム。よく頑張ったわ」
「……ババアも、そもそも私のほうの火炎魔法でやるって合わせてくれたじゃん。ババアも、なかなかいい仕事だったぜ。サンキュー、カレン」
「どういたしまして。あなたも、相当魔法使いとしての力をつけたわね」
せっかく仲良くなったはずなのに、すぐに小競り合いだ……と思っていたら、お互いに、本当にいい感じに頷き合っていた。
エルスウェンは安心して立ち上がると、フラウムたちのところへ歩み寄った。
彼女たちも気づいて、火柱の立った場所を指さす。
「見ただろー、エルス! お母さま、あれで成功でしょ!」
「ええ。まだ五割というところでしょうけど、初日でこの出来はすごいわ」
感心したように、母は頷いていた。珍しく、本気で褒めている。
ジェイが、火柱の立っていた場所を眺めて言った。
「あれで五割なのか。大幅な戦力の上昇だな。見ろ、砂礫が溶けて、一部ガラスになっている。あの火柱……すさまじい高温だったということだ」
エルスウェンも言われて見る。確かに、砂がガラス化していた。
あの青白い火柱は、どれほどの高温で燃えていたのか。恐ろしくなる。対象が生物であれば、ひとたまりもなく炭化するだろう。
次に、母が言った。
「初歩の魔法は、物理現象を引き起こす。なにもないところに、火や水、風を生み出したりね。でも、真の魔法は、物理現象も超越した現象を引き起こせるのよ」
母は、手近な草むらに手を伸ばした。そこへ向けて、呪文を唱える。
すると、先ほどふたりが使った魔法と同じような、青白い火柱が現れた。高さ一メートルほどの、小さなものだが。
母が手を振ると、それはすぐに消えた。草むらが、ぽっかりと円形にくり抜かれたように、中心部だけが灰化していた。
「こんなふうに、超高温でありながら、周囲にまったく延焼しない火柱を作ったりね。イメージは無限。くだらない制限を自分でかけてしまわない限り、どんなこともできる。双調魔法はふたりでイメージを補強し合うことになるから、突拍子もないイメージも魔法にしやすいのよ」
母は、フラウムとカレンに言った。
「双調魔法でできたことは、ひとりでも使えるようになる。威力は小さくなってしまうでしょうけどね。フラウムちゃん、カレンちゃんは、こういう魔法が実現できることを身をもって知った。これは、魔法使いとしての大きなレベルアップになるわ」
その言葉に、フラウムは頷いた。
「なんか、今ならもっと強い魔法が使えそうなカンジ」
「私も、火炎魔法をもっと具体的に使いこなせそうな……そういう感覚があるわ」
カレンも、自分の手を見下ろしてひとりごちている。
双調魔法には、そういう効果もあるのかと、エルスウェンは感心した。
手っ取り早く、自分の限界を超えた魔法を使用できる。それ自体には気をつけないといけないが、実力の壁を破るという効果も期待できるのだ。




