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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅲ 手を取り合って

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第112話 団結と協調 #1

 後衛の戦術書によると――


 双調そうじょう魔法とは、二名以上の魔法使いが同時に魔法を詠唱し使用することで、ひとりの術者による魔法の何倍もの威力を持つ巨大な魔法を得られる、という連携技術のことである。


 エルスウェンは巻物を開いて、細かく書かれている注釈に目を通した。


 巻物にいわく、双調魔法はどこまで魔法を揃えるかによって威力が大きく変わるらしい。


 まずは魔法の詠唱に使う呪文を全く同じにする。


 そしてその詠唱をする音声、その大きさも可能な限り同じにする。


 さらに、魔法に使用するイメージをも同じにすることで魔法は《《ひとつ》》になり、その威力は何倍にも膨れ上がるという。


 草原に腰を下ろしたまま、エルスウェンは首を振った。


 その難易度に、天を仰ぐ。


 空は高く、切れ切れに雲が漂っていた。快晴で、日差しが心地よい。外で魔法の訓練をするには、絶好の陽気ではあった。


 双調魔法の理論を確かめるために、家を出て、森を出て、できるだけ開けた野原にやってきていた。母を含めた全員がこの場に揃っている。


 母いわく、双調魔法の威力は成功すれば尋常でないものになり得るため、ロケーション選びは慎重に行った。街道からは遠く離れ、野生の動物も少ない場所である。


 そして万が一の場合に備えて、母が同行すると言ってきたのは意外だった。たまには外の空気を吸いたいからとも言っていたが、それだけで双調魔法というのが相当に危険な技術だと分かる。


 的にされるラークが、尋常でない威力ってどういうことだ、と首を捻っていたが。それは全員に無視されていた。


「あの……」


 声に、エルスウェンは顔を戻した。


 隣で巻物を覗き込んでいたアガサが、小さな声で言ってきた。


「……こんなこと、可能なんでしょうか?」


「どうなんでしょう。考えもしなかった理屈すぎて。想像もつかないですね」


 そう答えるしかなかった。


 魔法というのは、使えるようになるだけでも大変な技術だ。


 それをふたりで力を合わせて使うというのは、エルスウェンには到底考えつかないアイディアだった。魔力が無制限だから、必要であれば何度でも魔法を使えばいいという考えになってしまうからだ。攻撃魔法も使えないので、威力の極致などを考えたこともない。


 呪文を揃えて、詠唱の音声も揃える。ここまでは、訓練でなんとかなるのかもしれない。だが、最後のイメージまでも揃えるというのは、お互いの頭の中を覗くことができない限りは不可能だろう、と思える。


 巻物の記述を眺めつつ、言葉は自然と重くなった。


「極端に考えて……呪文と詠唱を揃えて、まずどれくらい威力が伸びるのかを考えたほうがいいのかもしれませんね。イメージなんて、共有できるわけがないんだし……最初から、そっちはまず捨てて考えたほうがいいのかも」


「そうですね……。でも、問題は……」


 アガサは顔を上げた。遠くを見ている。


 エルスウェンも、その視線を追った。


「ババアのが声デカいんだよ!」


「そんなことないでしょ! あんたが張り合って段々声デカくするから、私はそれに合わせようとしてるだけじゃないの!」


「張り合ってないし、とにかく全部ババアが悪い!」


「なんでよ!」


 離れた場所で、唾を飛ばして全力で言い合いをするフラウムとカレンを眺めながら、エルスウェンはアガサに答えた。


「……問題は、最初のふたつすら合うのかどうか、ってことですね」


「……はい」


 ふたりで嘆息する。


 双調魔法の実験に際してまず立候補したのが、カレンとフラウムだったため、とりあえずやらせてみた。が、当然ながら一回も成功はしていない。


 草原に同じく腰を下ろしているシャルロッテが、こちらを見て不安そうに呟いた。


「あの……どうして、カレンさんとフラウムちゃんはああいうふうにぶつかり合ってしまうのでしょうか? 仲が悪いとか、そういうふうには見えないのに……」


「そうですね。仲が悪いわけはないし、むしろとても良いほうなんですよ」


「そ、そうなんですか?」


「ええ。まぁ、醜いケンカばかりしているように見えますけど、アレはアレで、ふたりなりのコミュニケーションというか……」


 エルスウェン自身、自分に言い聞かせている気がしないでもなかったが。


「なんというか、あれは魔法使いとしてのサガみたいなものなんですよ」


「サガ?」


「はい。性質とか、そういうことです。説明すると……」


 エルスウェンは、自分の感じる範疇での魔法使い像、というものを、シャルロッテに説明することにした。


 まず、魔法使いには、プライドの高い人が多い。


 一見してそうは見えなくとも、基本的には、自分の得意な魔法で他人には負けたくない、負けないと思っていることが多い。


 エルスウェン自身も、母から習った古代魔法の練度や、それを使用できるということを自身の誇りにしている。母以外の術者には――たとえば、アミディエルが相手であろうと、他の森人の賢者だろうと――その腕で負けたくはないと思っている。


 だから、双調魔法の発想に辿り着けたのがシャルロッテというのは、ある意味で必然だったのだろう。彼女は魔法の修行を積んできた上で、それを操る世界とは無縁だった。だからこそ、魔法の力を合わせるという考え方ができたのだろう。


 探索者のパーティでは、後衛の役割分担ははっきりしている。Aが攻撃、Bが回復、というふうに。普通は魔力に限りがあるため、AはAの役割を、BはBの役割を全うできなければ探索はスムーズに進まない。


 ひとりで十分以上の威力を出せなければ、パーティの役に立たないし、一人前とみなされない。独力でどうにかしないといけない――そう期待され、そう扱われ、そう振る舞っていれば、自然とその技能に強烈な自尊心が宿ることになる。


 以上の理由から、探索者の魔法使いには、誰かの力を借りるとか、そういう発想が基本的に存在しないのだ。


「――っていう感じです。攻撃をするなら攻撃を。回復をするなら回復を。その役割を全うできないのなら、足手まといだっていう考え方が強いんです。魔法が必要とされる状況というのはおしなべて、パーティの命が懸かっている場面なんですから。複数の敵に囲まれていたり、誰かが瀕死の重傷を負っていたりとかですね。だから、魔法使いっていうのは、自分の技というものに、すごいプライドがあるものなんです。特に、探索者の魔法使いは」



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