第110話 対抗手段 #4
書いてあることは、やはり単純である。実際には、魔法を同時に使用する際のコツや、注意点などが細かく注釈されてはいるが、今はそこまで読む必要はない。
要するに、複数人で同時に魔法を唱えることで、巨大なひとつの魔法を作り上げてしまう。そういう技術であるらしい。
シャルロッテは、場を見回した。
「……もしかして、と思っていたんです。エルスさんのお母さまの魔法は、すごい威力で……魔法消去を無視できるんですよね?」
「はい、そうです」
「なら、二人以上の術者で魔法を合わせればどうなるんだろう、と考えたんです。普通に考えれば、消去されるのでしょうけれど、あの前衛の連携戦術を読んだときに、ピンと来たんです」
シャルロッテは熱っぽく続けた。
「前衛の書を読んで、その直感は正しいのでは、と思えました。息を合わせて同時に攻撃することで、不可避かつ威力も向上した攻撃を加えられるなら……魔法でも同じことができるのでは、と。さらに、複数の術者が詠唱も、発動も同時に合わせて魔法を使うことができたら、魔法の威力を倍加できないかと――」
と、ぱちぱちとまばらな拍手が聞こえた。
それを送るのは、テーブルについたままの母である。
「すごいわ、シャルロッテちゃん。よく気がついたわね」
「お母さまは、ご存じだったのですか?」
シャルロッテの言葉に、母は頷く。
「ええ、それはもちろん」
それを聞いて、エルスウェンは嘆息した。
「だったら、最初から言ってくれるか、巻物の存在くらい教えてくれれば……」
「そうしたら、あなたたちから成長の余地を奪ってしまうでしょう。双調魔法には協調性が不可欠なんですからね。協力して巻物を探していた時間は、決して無駄ではなかったはずよ。チームワークの向上にね」
そう言われては、納得するしかなかった。いい加減で面倒くさがりのようでいて、どこまでも先を見通している母の言うことは、大体正しい。
ただ……少々疑問に思いつつ、横目でフラウムとカレンを見やる。
「まー、その巻物を見つけたのは私なんだけどね!」
「なに言ってんのよ。私でしょう。あんたは私が開いた巻物を見て、これだって叫んだだけじゃないの」
「ババアが古語読めないから、私が読んでやったんだろー! 先に中身を明らかにしたのが私なんだから、私の勝ち!」
「巻物自体は私が見つけたのよ!」
また、唾を飛ばし合っていた。
本当にチームワークは向上しているのだろうか……?
むしろ、無用な小競り合いばかりだった気がする。
巻物を探している最中もそうだったが、今なおエルスウェンは凄まじい不安に襲われていた。
しかし――
「あ、あの。みんなの努力の成果、ということで矛を収めませんか?」
「そもそも……それはジェイさんがここに置いておいてくれたものですし……」
「ああ。誰の成果だとか、そういうことではあるまい。全員の努力の結果だ」
取りなしているシャルロッテに、アガサ、ラティアの様子を見ていると、あながち錯覚だと思えないような気もしてくる。
いびつなようでいて、これはこれで調和が取れているのだろう。シャルロッテに、シャーロットが加勢してくれたおかげで、それはますます強くなったように思う。
結局のところ。このメンバーだからこそ戦えるのだ。
そのことに感謝しつつ、エルスウェンは巻物に目を落とした。
「母さん。この方法で、解呪の魔法を……魔法消去を貫通するだけの威力に強めれば、黒燿の剣士を解呪できる、ということでいいんですか?」
「ええ。それでまず、未識別の呪いは外せるでしょう。つまり、ダメージの通らない存在ではなくなるでしょうね。怯むし、動きを止めることもできるようになると思うわ。死体を殺すということは不可能でもね」
未識別の呪いの解呪。それくらいなら、エルスウェンにも可能だ。フラウム、カレンはその解呪魔法を使えないだろうが、キャリス、アガサは使える。ふたりのどちらかとエルスウェンが連携すれば、未識別の呪いの解呪は可能だ、と言えるだろう。




