第109話 対抗手段 #3
気持ちを切り替えての昼食後は、何倍も効率よく作業を進めることができた。
三十分ほどで残っていた作業を終えて、エルスウェンは巻物を探しているジェイを呼び止めた。
「ジェイ、ちょっと来てくれる?」
「なんだ?」
と、彼はこちらの手元にある本を見て、言いたいことを察してくれた。
「翻訳が、終わったんだな。大変だっただろう。肩でも揉んでやろうか」
「いや、それは大丈夫」
ジェイの力で肩揉みをされたら、骨折しそうな気がする。
翻訳を纏めた本を示して、エルスウェンは言った。
「最初からざっと目を通してもらって。明日になったら、マイルズたちにも見せに行ってもらえないかな。あと、前衛のみんなへの内容の説明や実践については、ジェイに任せたいんだけど、いいかな」
「俺に? ラティアのほうが適任じゃないか?」
「説明するなら、ラティアのほうがいいのかな。でも、ジェイも頭は良いし、分かりやすく説明できるでしょ?」
言って、エルスウェンは本を開いて見せた。
「ラティアは、補助的な前衛なんだ。この本には積極的に連携して攻撃する方法だけじゃなくて、相手が連携をしてきたときにどう対処するかとか、そういうことまで書いてあるし……僕としては、たとえばジェイとマイルズだったり、ファルクとベルハルトだったり。そういう組み合わせで機能するものだと思ってるんだけど……だから、ラティアよりもジェイのほうが適任かなって」
「ふむ。そういうことなら、承知した。が……」
「なにか疑問がある? 図も写したし、分かりやすいと思うけど」
特に文章の分かりやすさについては自信がある。
昼食前の作業時、少し加勢してくれたシャルロッテが、いくつかの文章をより分かりやすく、噛み砕いた表現になるように助言をくれたからだ。
そのときにも、シャルロッテの聡明さには感銘を受けた。
が、ジェイの言いたいことはそういうことではないらしい。
「いや、その……」
ジェイはエルスウェンが開いている本のページを適当に手繰る。
なんとも言えない感じで、彼は続けた。
「なんだか……その図というか、絵が。キラキラしいというか……可愛らしいなと思ってな……」
「ああ。僕は絵心がないから、アガサに全部図を描き直してもらったんだ。それもあって、書き直すところが出てきて。時間がかかってたってのもあってね」
「それでか。うん、まあ……いいだろう。目を通しておこう。俺は巻物探しはしなくていいんだな?」
「うん。全部暗記して、マイルズたちに教えられるようにしておいて」
「承知した」
ジェイは少しも迷わず、頷いてくれた。
「じゃあ、僕が入れ替わりで、巻物探しを――」
そう言いかけたとき。
わっ、と歓声が上がった。なにごとかと本棚の並ぶ広間のほうを見ると、カレンの元へフラウムやシャルロッテたちが集まって、万歳やハイタッチをしている。
「あったー! 見つかったー! これじゃーん!」
フラウムが、カレンの持つ巻物を覗き込んで、大喜びしていた。
ジェイが、ふう、と息をつく。
「……ようやく先へ進めるようだな?」
きっと、巻物が見つかったのだろう。エルスウェンは頷いた。
「……これで、打開できるといいんだけどね」
「そうだな」
頷き合って、カレンたちの所へ向かう。
彼女たちはエルスウェンたちに気づくと、巻物を示した。早速目を通していたシャルロッテが、笑顔で言ってくる。
「エルスさん、見つかりました。後衛のための巻物ですよ。魔法使いの連携について書かれていますし――」
シャルロッテはカレンから受け取って巻物を開くと、ある記述を指し示した。
「ここです。やっぱり、想像は正しかったんです。条件はありますけど、魔法消去を突破するための方法は、やっぱりあったんです!」
エルスウェンはその記述に目を通して、頷いた。
「……こんな方法があったんですか。でも、確かに。……こんなことができるのなら、母さんがやったみたいに魔法消去を貫通することができるのかも」
「はい。でも……」
シャルロッテは不安そうな顔をした。
「……やっぱり、記述を見ると難易度はものすごく高そうです」
「うん。でも、ここには……キャリス以外の魔法使いがみんな集まっているし。早速、検討してみましょう。テーブルへ」
エルスウェンが促して、全員でテーブルに移動する。
シャルロッテが巻物を広げた。椅子には座らず、全員でそれを覗き込む。
代表してシャルロッテが、該当する記述を読み上げた。
「『双調魔法』――二名以上の魔法使いが同時に魔法を使用することで、威力を何倍にも高めたひとつの魔法を作ることができる」




