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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅲ 手を取り合って

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第107話 対抗手段 #1

 ただ、やることが決まったからと言って、問題が一気に解決するわけでもない。


 午前の時間すべてを費やしても後衛の戦術書は見つからず――


 本当にそんなものあるのだろうか、という一抹の疑問と共に、今は、全員で揃って昼食を食べているところだった。


 その昼食も、作業中ということで簡単なサンドイッチを作っただけだ。火を使わないものだからとフラウムは料理に参加せず、おかげで平和に食事ができる。


「どう? お口に合う?」


 カレンが、シャルロッテに訊ねた。


 シャルロッテは、こくこくと何度も頷いた。


「王宮の外でお食事をするのは初めてなんですが……とてもおいしいです」


「普段もっといいもの食べてるんだろー? こんなのパンに野菜とハムを挟んだだけじゃねーかよー」


 ガラ悪くフラウムがシャルロッテに絡んでいく。それにシャルロッテは困り顔になった。


「普段のものが、その、そんなにいいものかどうかは分かりませんが……でも、このサンドイッチも、とてもおいしいですよ」


「どうおいしいんだよー。数値で表すといくつで、それは王宮のメシより何倍くらいうまいんだよー?」


「ウザ絡みやめなさいっての」


 カレンがフラウムの頭をはたくが、彼女は据わった目のままだ。


「ぐるるる……」


 唸り声を上げるフラウムを見て、シャルロッテは困り顔になっていた。


「あ、あの。私はなにか、フラウムちゃんのご機嫌を損ねるような無礼を働いてしまったのでしょうか……?」


「いいえ、全然。こいつの心がお猪口よりも小さいせいだから。シャルロッテは一ミリも悪くないわ。気にしないで大丈夫よ」


「そ、そうですか」


 ひとまず、そのやり取りはそれで終わったようだった。あれだけシャルロッテと出会い頭に打ち解けておきながら、よく分からないものだ。


 探しているのは後衛の連携についての巻物なのだから、これからは連携が必要になるはずだ。だが、ここまでのことを考えると、後衛の連携については不安しかない。


 自分の分のサンドイッチを食べ終えて、エルスウェンはひとつ伸びをした。


「お疲れかい?」


 ラークが訊いてくる。それに頷いた。


「疲労については、魔法でどうにでもできるけどね。ちまちまと翻訳を続けるっていうのは、精神的に辛いものがあるよ」


 こちらの言葉を聞いてか、シャーロットが声をかけてきた。


「あの。エルスウェンさんは、無限の魔力を持っているって。本当なのですか?」


 それに頷きつつ、彼女の言葉を訂正する。


「そんなに他人行儀でなくていいですよ。みんな、エルスって呼んでくれるので。シャーロットもそう呼んでくれれば、と思います。もう、シャーロットは探索者の仲間なんですから」


「あ、はい。分かりました」


 彼女は仲間、という言葉に反応したのか、笑顔で応えた。それを見てから、質問に答える。


「魔力が無限かと言われると、その通りだと答えるしかないですね。でも、攻撃魔法を無限の破壊力にしたりとか……そういうことはできないんです」


「そうなのですか?」


「うん。僕が魔法使いとして使える範囲の魔法を無制限に使用できる、っていうだけで。そんなに大したものじゃなくて……。みんなは休んだりしないと魔力が回復しないですけど、僕はそれを必要としていない、と言えば、分かりやすいでしょうか」


「なるほど……」


 頷くシャーロットに、ラティアが横から言った。


「そうは言うが、無制限に回復や治療ができるというのは……信じられないことだ。お前はそれだけだと言うが、それだけで、どんな後衛よりも勝ると私は思っている。もちろん、それぞれの魔法使いには得手と不得手があり、それを上手く組み合わせることが、パーティの編成には必要だが」


「でも、無限の魔力だけじゃなくて。エルスはこのお母さまから習った古代の魔法を使いこなせるんだぞ。特に生命探知魔法は、迷宮探索に欠かせないんだからな!」


 まるで自分のことのように自慢するフラウムには、毎回背中がこそばゆくなる。


 それに、シャーロットは興味津々といった顔で頷いた。


「お話、伺っています。エルスさんは失われた古代の魔法を使いこなす、天才的な魔法使いだと。あと、魔法使いのみなさんについても」


 シャルロッテも頷いていた。シャーロットの後を継いで、彼女が付け加える。


「フラウムちゃんは、若くしてあらゆる攻撃魔法を使いこなす天才だと、アミディエルが言っていました。カレンさんも、使い所を選ぶ非常に難しい魔法である爆発魔法に熟達した、稀に優秀な使い手で……アガサさんは魔法論などの学問に対しても非常に優秀で、独自の魔法解釈から最適化された回復魔法はとても効率的で、どなたも簡単には真似られない素晴らしい魔法使いだと、伺っています」


「ほー……」


 シャルロッテの言葉を聞いて、女性三人は鼻の下を伸ばしていた。


「いいこと言うじゃん。分かってるねぇ、シャルロッテ。お茶おかわりいる?」


「ええ。私のサンドイッチ食べる?」


「……りんご、どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 食べ終わりそうだったシャルロッテのプレートが、サンドイッチとりんごで再び賑やかになる。フラウムにお茶のおかわりも淹れてもらうとシャルロッテは礼を述べて、それに手をつけ始めた。



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