表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅲ 手を取り合って

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/169

第106話 新たな仲間(あるいは好敵手) #3

 返事の代わりに、翻訳作業をしていた古代の戦術書をシャルロッテに差し出す。


「僕はこれを翻訳していたんです。魔法消去の方法探しは、もっぱらお手隙の人たちに任せていたんですが、そっちは全然、進んでいなくて。とりあえず、前衛のみんなの役に立つものだけでも完成させておこうと」


「巻物ですか。すごい。とても古いものですね。さっそく、拝見しても、よろしいでしょうか?」


「はい。どうぞ」


 好奇心を抑えきれていない、心臓の高鳴りをそのまま瞳に映したような様子で、シャルロッテは巻物を開いた。


 彼女はさっと一瞥すると、呟く。


「なるほど。武芸について……複数人での連携や戦術を記した巻物なのですね」


 ほんの数秒もかけずに、シャルロッテは内容を理解したようだった。それからは、うんうんと頷きながら巻物をどんどん読み進めていく。


 自信がある、と言っただけあり、それはすごい早さだった。エルスウェンよりも読むのが早いかもしれない。


 驚いていると、シャーロットが誇らしげに言った。


「シャルロッテは、子供の頃から本を読むのが好きで。王宮の本も、ほとんど読んでしまっているほどなんです」


「そうなんですね。おっしゃる通り、それは古代の戦術書、特に連携について書かれたものなんですけど。王女殿下は、武芸については分かりますか?」


 質問に、シャルロッテは顔を上げて頷いた。


「私はこういう身体ですから、実際にそういうことをするのは、シャーロットが得意なんです。でも、色んな本を読んでいますから。理屈とか、論理、術理とか……そういう部分で、武芸を理解しようと努めてはいます」


 と、一度言葉を切って、シャルロッテは言い直した。


「それでですね、あの。読んだのですが」


「もう?」


 思わず聞き返す。一分とかかっていない。


 それに、シャルロッテは巻物を元に戻しつつ、にこりと頷いた。


「はい。気づいたこと、と言っていいのか分かりませんが、気になることが」


「なんですか?」


 訊くと、シャルロッテは巻物を示して、言った。


「黒燿の剣士には、魔法消去の加護がかかっていて、魔法が通用しないんですよね。その、素人の想像でしかないのかもしれないですけど。私、破る方法があると思うんです」


「……本当ですか?」


 信じられない思いで、エルスウェンは聞き返した。いつの間にか、姿勢も前のめりになっている。


 フラウムとカレンもケンカを止めて、シャルロッテの言葉を聞いている。


 自分の言葉で場の雰囲気が変わったことに戸惑った様子だったが、シャルロッテは続けた。


「はい。破るというと、ちょっと語弊があるかもしれませんが。……あの。この巻物には、パーティ前衛の……剣など、武器を持って戦う方の連携方法が書かれていますよね?」


「はい、そうです」


「では、後衛の連携方法が書かれた戦術書もあるのではないでしょうか? 私の想像が正しければ、きっとそれに、魔法消去の破り方が書いてあると思うんです」


「……なるほど」


 エルスウェンは深く感心していた。いや、自分が浅薄だったのか。


 確かにこの巻物には、前衛の連携方法が記されている。それで満足していた。


 前衛の書があるなら、後衛の書もあるはずだ。それは、自然な想像だろう。


「僕は翻訳作業の続きをやります。あの、恐れながら、王女殿下には――」


「シャルロッテで構いません」


 シャルロッテはきっぱりと言うと、また眩しい笑顔を見せた。


「だって、私ももう、仲間として数えていただけるんでしょう?」


 病弱であるという話と、一見した印象からは、シャルロッテ王女はおしとやかで、大人しい性格なのかと思っていたのだが。その印象はそのままに、溌剌はつらつとした言葉が返ってくるのは新鮮ですらあった。


 それに圧倒されながら、エルスウェンは答えていた。


「わっ……分かりました。じゃあ……シャルロッテ」


「はい。なんでしょうか」


「シャルロッテは、アガサさんと一緒に、後衛の戦術書を探していただけますか。きっと、この家の中にあるはずですから」


「分かりました。任せてください! きっと、お力になってみせます」


 胸に手を当てて頷く彼女に、エルスウェンは少し気恥ずかしさのようなものを感じつつ、頷き返した。


 どうも調子が狂う――そう思っていると、カレンとフラウムが目に入った。


 テーブルに突っ伏すフラウムを、カレンが肩を抱いて慰めている。


「うおぉぉ……。私のエルスがぁ……!」


「恋なんて、終わるときは一瞬なのよ。元気出しなさい。一杯おごってあげるわ」


「わ、私はまだ負けてねえぞぉぉ……」


「無理無理。王女さまに勝てるわけなんてないんだから。すっぱり諦めなさい」


「イヤじゃあぁぁぁ……」


 こっちはこっちで、ため息が漏れる。彼女たちは、シャルロッテ王女にも失礼なことを言っている気がするのだが。


 なんにせよ、余計なことに関わっている時間はない。せっかくシャルロッテが素晴らしい方針を打ち出してくれたのだから、それを最大限に活用しないと。


 エルスウェンは、アガサに言った。


「そういうわけで。アガサさんは、翻訳書の図を写し終わり次第、シャルロッテと協力して、後衛の戦術書探しをお願いします」


「はい……。分かりました」


「解読のできない人たちは、手当たり次第に巻物を集めてください。後衛の戦術書も、きっと本ではなくて、巻物になっているはずですから」


「それくらいなら、ぼくやジェイにもできるな。手伝うよ」


 ラークが頷く。ジェイも、ラティアも頷いた。


「ほら、フラウム。あんたが巻物を見つけたら惚れ直してくれるわよ。失地回復のチャンスじゃない。がんばって、ほら」


「ううう……。古代語嫌いだけど……。分かったよ、真面目にやるよ……」


 しなびたフラウムが、カレンの声かけで蘇る。というか、今まで本当に真面目にやっていなかったのか、と思ったが……。


 ともあれ、膠着状態が、シャルロッテたちの来訪によって一気に解決した。


 そしてすべては、黒燿の剣士を倒さねば始まらない。


「じゃあ……始めましょうか。黒燿の剣士を倒すために」


 決意を新たに、エルスウェンは作業の開始を宣言した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ