第104話 新たな仲間(あるいは好敵手) #1
鹿のウンコを取り終わったシャルロッテも合流し――
それから小一時間をかけて、ふたりがなぜここへ来たのか、という説明を聞き終わった。
まず、きちんと女王の許可は取ってあるということ。
ここへは、アミディエルに転移させてもらった、ということ。
王宮で討伐の話は聞いていて、報告書も目を通している、ということ。
その上で、シャルロッテは古文書を読み解く手伝いをさせてほしい、ということ。
シャーロットは、探索者として討伐隊の一員に加えてほしい、ということ。
加えて、ふたりの関係についても、簡単に聞かせてもらった。いわく、シャーロットは王女シャルロッテにうりふたつの外見であったことから、幼少時に王宮へと引き取られて、シャルロッテの双子の妹として現女王に育てられた、ということらしい。
その上で、謁見時や、酒場での話し合いの際は、身体が弱いシャルロッテの替え玉として、シャーロットが参加していた、ということも教えてくれた。
すべてを聞いたうえで、フラウムがテーブルの上に伸びる。
「なんか重大な王宮の秘密聞いちゃってない? 大丈夫? まさか王女に影武者がいたなんてさぁ、漏らしたら打ち首だよね、私たち」
「そ、そんなことはありませんから! 打ち首なんてしませんから!」
必死に否定するシャルロッテに、ラティアが加勢する。
「うむ。王宮では、シャーロット様の存在は周知の事実だった。彼女がその……影武者であるということも、噂としてまことしやかに囁かれていた」
「ラティアは知っていたんだ?」
「ああ。王宮内の全員、シャーロット様を双子の妹の王女として接していたよ」
それでも、彼女からはこういった話は一度も聞いたことがなかった。王宮内で公然の秘密と化しているとはいえ、ラティアがやすやすと秘密を漏らすことなどあり得ないだろうし、当たり前だが。
と、ラークが面白そうに口を開く。
「しかし、今の王女さまがそんなことになっていたとはね。小さい頃にそっくりだからと王宮に引き取られ、双子の王女として育てられた影武者がいて……と。すごいな。これだけで、戯曲をひとつ書けそうだよ」
「書くの?」
「黒燿の剣士の討伐が終わって、暇ができたらかな」
ラークは笑顔で頷いている。それにふたりの王女は特に抗議もしない。
次に、カレンが言った。
「でも……正当な、なんて言っていいのか分からないけど。王女さまはシャルロッテだけってことよね。結局、シャーロットは一緒に育った単なるそっくりさん、ということでいいのね? で、たまに替え玉になっていた、と」
それに、シャーロットが頷く。
「ええ。私は双子の妹として育てられましたが。正統な王女はシャルロッテです。私は、アミディエルから学んだ魔法を生かして、探索者になりたいのです。まずはシャルロッテの身体を治してあげられる、そういう秘宝を見つけたくて」
発言する彼女の瞳には、並々ならぬ決意の炎が見えた。
それを見て、感じ入ったようにラークが言う。
「うん。影武者として育てられたけれど、本物の王女を救うために、命の危険も省みない探索者となる……。いいね。グッとくるな」
「でも、探索者は危険な仕事ですけど……大丈夫ですか?」
エルスウェンがシャーロットに訊くと、彼女はやはり、その瞳のままで頷いた。
「はい。覚悟はできています」
「じゃあ、私たちから言うことはなにもないわよね。今日から仲間、ということで、一緒に頑張っていきましょう。シャーロット。まぁ、目下の敵はとんでもない怪物なんだけどね」
カレンが頷きながら言うと、シャーロットはなぜか慌てた顔になった。
「そっ、そんな簡単に。いいんですか?」
「もちろんよ。そもそも、あなたが決めて、あなたが選んだことでしょう? 王女殿下にそういう事情があって。それを治してあげたいなんて、すごく立派な理由だし」
と、フラウムが横から割り込んだ。
「このババアなんて、迷宮の財宝が目当てなんだぜ。欲の皮突っ張ってるだろー」
それをカレンは、目尻をひくつかせながらもなんとかスルーしていたが。
ラティアが、シャーロットに言った。
「探索者とは、訓練所、王宮に認められれば誰でもなれるものです。『誰か』に許可を取らなければ認められないとか、そういうものではありません。もちろんシャーロット様が探索者になる、ということには驚きましたが……。それだけです。ご自身で決意をなさったのなら、あとはそれをご自身で貫くだけですよ」
「……分かったわ。ありがとう、ラティア。ではみなさん、改めて、探索者としてのシャーロットを、よろしくお願いします。黒燿の剣士の討伐にも、できることがあればどんなことでも協力します」
万雷の拍手が起こったりはしないが、全員で頷いてシャーロットを迎え入れる。
と、ラークが疑問を発した。
「ただ。シャルロッテ王女は生まれつき身体が弱くて、その原因も不明だということだけど。エルスのお母さまには、なにか分からないのかな。それによっては、シャーロットは迷宮に潜る必要もなさそうなんだけど」
それは後々、エルスウェンは母に質問しようとは思っていた。
この場で堂々と聞いてしまえるラークの性格に感心しつつ、エルスウェンは掩護射撃を試みた。
「どうでしょう。母さん。なにか分かることはありますか?」
「あの、どんなことでも構いません。シャルロッテは、治せるんですか?」
シャーロットも、懇願する調子で加わってくる。
母は、優しく微笑んだ。
「シャルロッテちゃんのことは、私も当然、話には聞いているから知っているわ」
母は、この家から出ることは滅多にないし、王都を訪ねることは全くないと言っていい。
なのに、なぜ王宮の機密というべき王女の体調まで知っているのか。
考えても仕方のないことではある。理由をつけるなら、この人だから、ということでしかないだろうから。
なので、エルスウェンは母の言葉の続きを待った。




